インパクト投資は社会をどう変えますか?~社会変革推進財団(SIIF) 加藤さんに訊く(3)
インパクト投資は社会をどう変えますか?~社会変革推進財団(SIIF) 加藤さんに訊く(3)

インパクト投資は社会をどう変えますか?~社会変革推進財団(SIIF) 加藤さんに訊く(3)

第2回では、インパクト投資ではアウトプット(財務情報)ではなくアウトカム(社会的成果)を重視し、そのアウトカムを定量的に把握・評価することを伺いました。 最後となる第3回では、インパクト投資がどのように社会を変えていくのかについて、引き続き、一般財団法人 社会変革推進財団(以下、「SIIF」)の加藤さんにお話を伺いします。

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一般財団法人 社会変革推進財団 加藤 有也さん

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インタビュアー 村上 茂久 株式会社ファインディールズ 代表

若者は経済的リターンに嫌悪感を持つのか?

村上茂久(以下、村上):

最近の学生や20代の若者間では社会問題や環境問題に関心を持っている人が明らかに多いと感じます。同時に、「ビジネス」や「利益を出す」ことに嫌悪感を持っている人も多い印象です。

例えば、ビジネス・インサイダーの佐藤優さんの記事「Z世代部下の「正しくないからやりたくない」に悩む管理職。私たちは「日本の大企業おじさん」なのか?」では、Z世代のしごとへのモチベーションについて、管理職の悲哀が語られています。

最近特に外資系企業を中心に以下の図表8にあるような「ニュー資本主義」を掲げていて、環境に配慮することは、「お金のかかること(利益を下げること)」ではなく、「長期的には利益を上げることにつながるのだ」という経営方針の転換を遂げている先もあります。

図表8 ニュー資本主義

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出所:夫馬賢治(2020)『ESG思考』講談社新書を参考にして作成

そんな中で、今後、社会全体の価値感をこのミレニアル世代・Z世代が形作っていき、将来的には投資家になっていく時もくると考えたときに、「インパクト投資」のようなものがどうなっていくのか、この辺りはどうとらえていますか?

インパクト投資やESG投資自体はこれらの世代にも受け入れられるとは思うのですが、経済的リターンに対しての嫌悪感が一体どう影響してくるんだろうと思っています。

加藤 有也(以下、加藤):

起業家だけでなく、インパクト投資家にも20歳代の人は出てきています。「経済的リターンのためだけにやっている」ということへの、彼ら彼女らの違和感は確かに感じ取れます。

そこで、最近気にしているのは、「資本主義」の話と「市場経済」の話について、議論を分けなければいけないとということです。

というのも、私たちが経済的リターンに感じる嫌悪感は、どちらかというと資本主義のロジック、つまり資本自体に自らを増殖させることを最優先にする前提が与えられていることによって、どんどん格差が広がっていくことに対してあると思うからです。この嫌悪感は私も理解できます。

他方で、市場経済は価値の交換を行うことで総体としての価値が増える仕組みです。貨幣は交換を媒介しているだけです。等価交換をしているにも関わらず、一人でひたすら自給自足をするより、みんなでそれぞれが得意なことをやって交換し合っていった方が全体の満足度は増える。このメカニズムに反対する人はあまりいないと思います。

Photo by Álvaro Serrano on Unsplash
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つまり、非営利団体ではなく営利団体である株式会社で起業する、言い換えると市場経済の力を活かしながら社会課題解決を目指す起業家には、既に幅広い世代から支持が集まっていると思います。いま重要になっているのは、そのために必要な成長資金を起業家に届ける持続的な手法は何かということだと思います。そしてそのアプローチとして、「資本主義が発達させてきた手法を改善して資本主義のバグを修正する」方法論と、「そもそも従来の資本主義の手法には頼らず新たな手法を生み出す」という取組みが同時に出てきているのではないかと考えます。

この整理でいうと、ESG投資は前者の取り組みです。具体的には、二酸化炭素排出が多い石炭関連の企業への投資を減らすことでESGのマイナス要因が減り、且つ投資家は市場競争力のある利益を得ることができる、ということをやっています。すなわち、資本主義の内側から資本主義の弊害を治癒していこうとする取り組みではないかと思います。

他方、インパクト投資は上記の方法論を両方カバーしています。例えば、はたらくFUNDは機関投資家の皆さんの資金をお預かりして、マーケットレートでお返しするという意味では前者の取り組みです。他にも、ゼブラ企業に出資する新たな取り組みでは、現在の資本市場が求めるリターンでなくとも社会的な価値が高ければ満足する資金を原資に世の中を治す。これは後者の例だと思います。その意味では、インパクト投資が扱っている範囲は従来の資本市場より広いのではないでしょうか。

(再掲)図表3 ESG投資とインパクト投資

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インパクト投資はどこまで社会課題を解決できるのか??

Deeper 編集長:

うちの会社の若者に「この対談に向けて聞いてみたいことある?」と投げてみたんですよ。そうすると、若手からこんな質問が来ました。

「お金で解決が見込めるような領域においてはESG投資やインパクト投資で世の中を変えていってもらえば良い。しかし、例えば、アマゾンの原生林のような生態系はお金が全く介在していないところ。そこに、市場経済のようなお金の絡んだロジックの活動(原生林を伐採し開拓して、農地化するようなこと)が入るのをやめられないのか。生態系の中に市場経済のようなものが入って木々が伐採されてしまうという状況をとめられないか」という質問です。

加藤:

「お金を介在させるのはやめた方が良いのは何故か」によるんでしょうね。お金を介在させることで害が起こるからという考えもあるかと思います。この議論は私もずっと違和感があったのですが、最近とても納得する発見がありました。

山口周さんのこちらの『ビジネスの未来』にあるこの図(図表9)を見て、すごくすっきりしたんです。これは、縦軸に課題解決の難易度を横軸に課題の普遍性(市場の大きさ)をとったものです。そして、青の部分が経済として成り立つという閾値になります。

図表9 「社会が抱える課題の普遍性」と「課題解決の難易度」

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出所:山口周(2020)『ビジネスの未来』プレジデント社を参考にして編集部作成

例えば、「すいかを食べたい人がいるからすいかを作ろう」ということと、「知的障害を持つ方がいて、やりがいのある仕事ができなくて心が折れていることを解決しよう」ということは一見全く違うことに見えます。

しかし、「人に課題があってそれを解決する」ということではどちらも全く同じです。では違う点といえば「商売が解決できることとできないことの限界は何か」ということを山口周さんは指摘してます。

「課題が大きいかどうか」と「課題が解決できるコストが大きいかどうか」の差をとるとします。そして、「大きい課題」、つまりみんながすいかを欲しい、ということと「すいかを作って届けるコスト」を比べた際に、コストが低いとこれはビジネスとして成立して、青い方に入るんですよね。

だから、商売として成立するんですよ。先ほどの知的障害者の例でいくと、知的障害の方の心が折れてしまうという問題に対して、商売で直接解決しようとしてもできないことがある。つまり、この外側にある白の部分ですよね。

こうした「市場も小さいし難易度も高い」白い部分は、今までは行政や非営利団体が受け持ってきました。先ほどの市場経済の力をどう使っていくかという観点でいうと、ソーシャルビジネスは、この白の領域にある問題を知恵と工夫で青側に持ってきたり、青側の課題解決とセットで白側の課題を解決することなんじゃないかなと思います。

なのでこの図を見ると、資本主義がいいか悪いか、市場経済がいいか悪いか、という価値判断を抜きにできるんですよね。課題解決のコストとベネフィットだけに見れるようになります。

最近の社会起業家やインパクト投資家は、左上の白い領域を解決するためにビジネスを使いたいという人達なんですよね。社会課題も解決するし、ビジネスを工夫して経済合理性ももたらすよう青側に持ってきている案件に、資本のエネルギーを活用するはたらくFUNDが投資するんですね。

Photo by Priscilla Gyamfi on Unsplash
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市場をいかに活用させるか

村上:

今頂いた加藤さんの例にかなり近いのですが、乾さんの今のご質問で言うと、エリノア・オストロムという経済学者がいます。女性初の経済学でのノーベル賞受賞者(オリバー・ウィリアムソンとともに)です。

彼女らの研究の中で、「共有地の悲劇」というものがあります。例えば、みんなが使える池があり、そこに沢山の魚がいたとします。池は共有地、すなわちみんなが使ってもいいところなので、みんな自分のためだけに魚を釣りまくって、結局魚がいなくなりましたというのが「共有地の悲劇」です。

ここでの課題は、この問題に対処するルールのようなものが無いせいで、ほっておくとダメになってしまうということです。そのためにコミュニティが補完する、もしくはあえて市場の制度を持ってくるというようなことをやることで、いわゆる経済学で言う「資源の配分」を効率的に行うことが出来るようになります。有限な資源をいかに効率的に使うかという、市場経済の導入でうまく機能するということが示されています。「共有地の悲劇」が起こるのは、この視点がないためです。

Photo by Nick Fewings on Unsplash
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先ほどのアマゾンの話で言うと、「ここは誰のものなのか」ということで、地球全体のものだとすれば先の池の例と同じく「共有地の悲劇」が起こる可能性がある。

そこで、そこのガバナンスなり、設計をどうしましょうかを考える。その設計に金銭的なものが入ることもあれば、そうではないケースもあるというのが経済学的な解になります。

昔「騒音おばさん」というニュースが話題になりました。隣に毎日騒音でうるさいおばさんがいました。近所のみなさんが迷惑なので、その人にやめてもらうにはどうすればいいのかを思考実験してみます。対応策としては2つ考えられます。

一つは、自治体に頼んで、騒音に対する罰金を科すという解決法。これは比較的誰もが思いつくものです。

もう一つは、「騒音を出す権利を」を尊重し、騒音おばさんに「お金を払う」ことで、騒音を出すのをやめてもらうという方法。これが経済学の考え方で、究極インセンティブのあり方なんです。すなわち、公共の場において、騒音を鳴らす人に対して、マーケットメカニズムを持ち込み「お金を払うので、騒音を出すのをやめてください」と交渉をするものです。これは、見方を変えれば、炭素税の仕組みとも似ています。

お金で解決するというと聞こえは悪いのですが、市場メカニズムをいれる解決方法は個人的には選択肢として重要だと思います。言い換えると、何もせずに自然に任せてうまくいくという方法はそれほど多くは無いと思います。アダム・スミスの「神の見えざる手」があまりにも有名ですが、だからといって放置したら問題が解決するというものではなく、市場の設計をどうするかが重要だと考えています。

Deeper 編集長:

加藤さんが最初におっしゃった「SDGsはゴールであり、インパクト投資は手段である」ということと似ていますね。

これまでなら解決が難しかった社会課題に対して、多くの知恵と工夫で社会課題を解決する、インパクトを生み出す活動が生まれてきているし、そのような活動が持続可能となるように、経済合理性をもたらすビジネスが生まれてきている、ということですね。

Photo by Mika Baumeister on Unsplash
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インパクト投資はゼロからプラスにする取り組み

Deeper 編集長:

お話を伺っていて、ESG投資というのは「企業の持続的発展のために環境を犠牲にしない」や「人権などの社会的配慮をする」という負の要素に配慮することなのではないかと感じました。これまでのオールド資本主義であれば、儲ければ儲けるほどCO2を大量に排出して環境により負荷をかけてしまう、経済的リターンと環境負荷が連動するのが当たり前でした。

ESG投資を主眼に置いたニュー資本主義では、これまでセットだった経済的成長と環境への負荷増大を切り離す、プラスはそのままに、マイナスをいかに0にするか、という”デカップリング”が叫ばれています。別の言い方をするとESG投資は、「新しいスタンダード」に則った投資と理解しています。

他方で、インパクト投資はESG投資よりも更に明確に取り組むべき社会課題を定めて、0またはマイナスであるものをプラスにしていこうとするアクティブな投資活動という理解しています。

加藤:

同感です。インパクト投資は、「マイナスからプラスにする」や「ゼロからプラスにする」というポジティブなインパクトを生むことを目指している投資です。ネガティブを削ることに加えて、ポジティブを増やすという明確な意図があります。

かたや、ESG投資がなぜここまで金融の世界で盛り上がったかというと、一言でいえば、株価が上がったことなんです。もう少し詳しく言うと、ESGの変数・要素を調べて、そういった要素をきちんと手当をしている企業の方が儲かっているし、株価も上がっているということです。すなわち経済的リターンが大きい。これ自体は素晴らしいことです。

そのうえで、インパクト投資は、経済的リターンが上がるかどうか判断軸に加えて、お金を使ってアウトカムをどう生み出すかを意識しています。

Photo by Leohoho on Unsplash
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Deeper 編集長:

思うに、20~30年後から見たら「ESG投資って当たり前じゃん」ってなりそうです。

例えば今は男女参政権平等で、広く当たり前と思われている価値観ですけど、昔は男性だけだった。でも、女性も政治に関われるようにすれば、不平等が直され社会問題が解決し、結果的に国としてもっと発展するよ、という考えのもと、世界各国に広まりました。そのような感じで、将来は業種・業界関わらずESG投資における企業の取り組みが当たり前になると思います。

加藤:

そうかもしれないですね。ESG投資が今後さらに普及していくであろう背景として、自分が理解している範囲で2点ほど補足をします。

一つは、特に一般消費者向け業界に顕著ですが、最終消費者のニーズが変わってきたということです。ESGをないがしろにする企業の商品には背を向け始めているので、ESGに配慮をしないと業績がマイナスになるということです。例えばサプライチェーンで働く労働者を苦しめている企業には、不買運動が起こるといった事例は珍しくなくなってきたと思います。

もう一つは、ヨーロッパを中心に規制当局がESGに対応できていない企業に対して網をかけてきていることもあります。すなわち、企業はESGに取り組まざるを得ないという要因があるということです。

村上:

それに対してインパクト投資は、新しいスタンダード・ルールに則るだけではなく、主体的に未来を創る印象があります。サステナブルファイナンスという議論もあるのですが、これは、産業革命前と比べて世界の気温上昇を1.5度以内に抑えるというパリ協定の目標の達成のために使われるファイナンスの活動というように一般的には言われています。ここでは、目指すべきアウトカムが極めて明確になっています。同様にSDGsもアウトカムは極めて明確で誰も反対しないものです。

他方、インパクト投資は、アウトカムを自ら作っていくという点で、より主体的に課題を発見するとともに、課題の解決をしようとしている金融の仕組みのような感じを本日の話を伺っていて感じました。

加藤:

そう言ってもらえると勇気づけられますね。実感としては投資しているメンバーでまさにおっしゃるような取り組みをしています。また、起業家の方にも同様な考えを持つ方が増えてきているいるように感じます。

村上:

加藤さんのお話を伺う中で、インパクト投資の特徴の理解が非常に深まりました。3回にわたってインパクト投資についてご解説いただき、ありがとうございました!

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