インパクト投資ではインパクトをどう測り、投資判断や支援に活かしますか?~社会変革推進財団(SIIF) 加藤さんに訊く(2)
インパクト投資ではインパクトをどう測り、投資判断や支援に活かしますか?~社会変革推進財団(SIIF) 加藤さんに訊く(2)

インパクト投資ではインパクトをどう測り、投資判断や支援に活かしますか?~社会変革推進財団(SIIF) 加藤さんに訊く(2)

第1回では、「経済的なリターン(利益)を生み出すと同時に、社会課題解決も追求する投資」であるインパクト投資の仕組みなどを伺いました。 今回は、インパクト投資におけるインパクトの測り方、投資判断や支援への活かし方について、引き続き、一般財団法人 社会変革推進財団(以下、「SIIF」)の加藤さんにお話を伺いします。

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一般財団法人 社会変革推進財団 加藤 有也さん

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インタビュアー 村上 茂久 株式会社ファインディールズ 代表

インパクトはどう測るのか

村上茂久(以下、村上):

伝統的なファイナンス理論では、「リスク」と「リターン」の完全な2次元の考え方で、リスクをいかに最小化してリターンをいかに最大化するか、というところでモデルを作ることが考えられてきました。例えば、分散投資によりリスクを軽減しながら、リターンの最適化を図ってきたというものです。

他方、インパクト投資は「リスク」と「リターン」に加えて、「インパクト」も入れて三次元で考える点が非常に興味深いです。

図表4 リスク、リターン、インパクトの3次元

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例えば、仮にある事業がリターンを最大化したとしても、別の側面として、社会課題を生むようなことはありえます。例えば、ギャンブル性の高いようなゲームの課金等です。実際、射幸性が高いという理由でかつてガチャという仕組みには規制が入りました。

リスクとリターンの2次元だけだと事業を通じて生まれてしまう「望まない社会課題」を捉えきることが必ずしも出来ない。しかしながら、インパクト投資では最初から「インパクト」を考慮に入れている。リスクとリターンはファイナンスでも常に計量化がされてきました。では、「インパクト」はどのように計量化、すなわち測られるのでしょうか。

加藤 有也(以下、加藤):

測り方でいうと、現状完全に確立された「これだ」というものはまだグローバルでもないです。会計・ファイナンスは数百年の歴史がありますよね。インパクト投資の歴史はまだ10年強と短いですし、ESG投資におけるESGインテグレーションもまだせいぜい30年位だと伺っています。

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ESGインテグレーション ESG投資の投資分析手法の一つ。投資判断の際、従来の「財務情報」に加えて、環境や社会問題への対応など企業のESG(環境・社会・企業統治)に関する取り組みを「非財務情報」として加え、総合的に企業を評価すること。

ただ、インパクトを測る手法や切り口の整理は進んでいます。「どういった指標を追っていくべきか」や「成果指標としてインパクトをどう測るか」の指標のセットも今生まれています。そういう意味では手法は出てきています。

まずインパクトをどう切り口で捉えるかでいうと、次のようなインパクトの5次元(5 dimension)というのがあります。

  1. What: どのようなアウトカムを
  2. Who: どのような受益者に対して
  3. How Much: どのような程度の深さ・広さ・時間的⾧さでもたらすのか
  4. Contribution: 投資先事業者及び投資家はアウトカム創出に貢献しているか
  5. Risk: 想定するアウトカムからどう乖離するリスクがあるか

加えて、社会的リターンを次の7つの質問で分析をします。

図表5 社会的リターンにおける7つの質問

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出所:一般財団法人 社会変革推進財団

この手法自体はグローバルで今まさに普及つつあります。グローバルでIMP(IMpact Manegement Project)というものがありまして、2000位のインパクト投資をやっている団体が参加しているプロジェクトです。この場で様々な投資家が議論を練り上げた結果、グローバルでの共通認識として「インパクトはこの5次元で分析するのが有効ではないかの」という議論がされており、我々も投資検討時や投資後の支援・モニタリングで活用しています。

インパクト投資ではアウトプットではなく、アウトカムを重視する

村上:

今の議論にも通じるのですが、私はインパクト投資における「アウトカム(成果)」という議論が素晴らしいと思っています。ビジネスではよく「アウトプットを出せ」と言われるのですが、個人的にはこの「インプット」「アウトプット」というのが20世紀的な発想だと感じています。

物を大量生産して大量消費をしていくという文脈で生まれたのがアウトプット思考です。アウトプットだけで評価してしまうと「アウトプットを出すためにがんばりました」で終わってしまいます。そうではなく、「アウトプット」の後にもたらさられる成果や帰結、すなわち「アウトカム」を重視することが大事だと考えています。

例えばサブプライムローンで言えば、当初は低所得者に対して住宅ローンを提供しようとしたものでした。このアウトプット自体は決して悪くないものと思います。他方で、地価の上昇を前提としてやや無理のあるローンを金融機関が低所得者層に提供するとともに、これら住宅ローンを束ねて証券化という手法を用いて、金融商品を開発しました。しかし、その後、地価が暴落しました。その結果、100年に一度とも言われるほどの金融危機がアウトカムとして出てきてしまいました。

私自身、かつてサブプライムローンに投資をしている部署に所属していたこともあり、こういった原体験を経て、アウトプットとアウトカムの違いを痛感したことがあります。このときの経験は、あまり良くないアウトカムというものでしたが、先程加藤さんがおっしゃったように、インテンショナリティ(意図)をきちんと持つことで、アウトプットの先にあるアウトカムを意識することは極めて重要だと感じております。

加藤:

まさにインパクト投資でいうロジックモデルですね。インパクトを測定するのに用いられる図表6の「事業の流れ」と図表7の「ロジックモデル」の図です。

図表6 事業の流れ

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出所:ロジックモデル作成ガイドを参考に筆者作成

すなわち、ヒト・モノ・カネといったインプットがあり、これらインプットを用いて、企業を含む事業や組織などは事業の活動を行う。そして活動のアウトプットとして、製品やサービスが提供されることになる。このアウトプットを通じて社会に変化や効果がもたらされる、すなわちアウトカムにつながるというものです。

そして、事業や組織が最終的に目指す変化・効果の実現に向けた道筋を体系的に図示したものが図表7のロジックモデルです。

図表7 ロジックモデル

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村上:

事業内容のアウトプットの後にあるのが、「アウトカム(初期・中期・最終)」ですね。この整理が素晴らしいなと感じています。

多くのビジネスパーソンにとってこの「アウトカム」という発想自体には新しい価値があると思っています。この辺り教えていただけますでしょうか。むしろESG投資との違いもここではないかと考えています。

加藤:

アウトプットの視点から言うと、ビジネスを行う事業者が直接コントロールできるのはあくまでアウトプットまでということなんです。それから先はそこから生まれた効果や影響、すなわちアウトカムというのは、「風が吹けば桶屋が儲かる」という先の話なんですね。

つまり、「自社の活動がどのような形で、お客様 “以外”の社会(ステークホルダーの方々)や環境に影響を及ぼすのだろうか」というのがこのアウトカムを分析する目的になります。

インパクト投資の場合は、特定のインパクト、言い換えると、アウトカムをもたらしたくて出資をすることになります。つまり、インパクト投資家としても、我々が望むアウトカムが得られるかどうかを判断基準として投資を行うということです。

なので、ノウハウ的な部分でいうと、大前提となる視点として、「自社の顧客では”ない”人達にどういう影響があるのか」という視点が根本的には大事になります。その視点を深堀するためにこのロジックモデルを使っていくということなのだと考えています。

Photo by Jon Tyson on Unsplash
Photo by Jon Tyson on Unsplash

村上:

結局、財務諸表における売上がいくらかや利益がいくらか、というのも基本アウトプットだと思うんですよね。その先の「アウトカムがどうなるのか」や「このアウトカムを狙ってこのアウトプットを出していくのだ」というところに世間とのギャップが有るように感じています。

世の中の企業の多くは、ミッションやビジョンは持っているものの、アウトプットとなる決算書で出たその先が、いきなりミッションやビジョンというのでは、結構な隔たりがあるような印象を持っています。

インパクト投資の強みは、このアウトカムを初期・中期・長期にかなり解像度高く、しかも意図的にやっている点にあります。これはESG投資ではそれほど多くない発想だと思います。アウトカム思考というのは、もっと普及してもいいのではと個人的には思っています。

加藤:

確かに。ミッション・ビジョンのある会社は沢山あるし、「事業とミッション・ビジョンの間が繋がってないように見える」こともあります。ただ、単に言語化されていないだけで、企業と話す中で、長期的なゴールとしてのビジョンと事業のつながりが出てくることが多いのも事実です。インパクト投資家としては、企業と壁打ちしながら「企業が達成したいアウトカムに繋がりうる道筋」を引き出していけたら一番いいと思います。

実際のところ、取引先との間でこのロジックモデル作成のプロセスをやることで、「この事業だけではこのビジョンには届かないよね」という風になることがあって、新たな事業アイデアが生まれるという例もあるんです。

そこは支援という意味も含めてロジックモデル作成も手伝っています。おっしゃるように、投資家側も企業側もアウトプットとミッション・ビジョンがどう繋がるかを明らかにして、「投資して、ご支援していく」という共通の土台としてとても重要だと考えています。

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ESG投資は活動に着目し、インパクト投資はアウトカムに着目する

加藤:

ESGの観点は図表7のロジックモデルで言うと「インプット」「活動」「アウトプット」だけなんですよね。「生産活動で従業員やバリューチェーンに関わる人が苦労していないか」や「生産活動でCO2を生んでいないか」、「企業経営としてガバナンスがどうか」という点に着目をします。

そして、それらにリスクが少ないことは「長期的な企業価値向上に効いてくる」と考えられています。他方、インパクト投資は活動の先の話をしている、つまりアウトカムに着目しているということなんです。両方は決して対立したコンセプトではないのですが、現時点では目的の面で違いは大きいと思います。

村上:

ESG投資の観点でいえば、例えば、環境面において「プラスチックはどのように使っているのか」という企業の活動について、投資家が非財務情報として投資判断をすることになる。そして、ESG投資のプレッシャーを踏まえて、企業は活動を見直し、その結果出てくるのがプラスチック製ではなく、紙のストローという感じですね。

加藤:

インパクト投資家がESG要素を見ていないかというと、全くそうではないんですよね。例えば、はたらくFUNDでは「上場してもインパクト生み出し続ける会社」に未上場の段階で出資しているのですが、上場を目指す過程で、ESGリスク評価や上場プロセスに関わる専門家にも付き合ってもらい、ESG投資の機関投資家の皆さんとも接点を持ち、ESG投資的な視点とインパクト投資の視点の両方を持つようにしています。徐々に両方とも必要になっていくのが自然だと感じています。

Photo by Thomas Richter on Unsplash
Photo by Thomas Richter on Unsplash

ロジックモデルの多様な使いみち

村上:

このロジックモデルというのがインパクト投資を特徴づけるものだと理解しています。このロジックモデルにおけるアウトカムというのは基本定量化すべき論点でしょうか。

加藤:

全部定量化するというのが目的ではないですが、事業面でさまざまな管理会計上のKPIを設定するように、インパクト側にも経営陣が見るべき成果指標を設定しておいて、「その指標を追えば確かにこのインパクトを生み出せているよね」という感覚を企業内部で持っていただける事はあると思います。

そして、これこそが我々が目指しているところでもあります。これらの指標を見ながら経営をすることで、インパクトがうまくいかない場合には、改善をするというような目的で使ってもらえるとありがたいと思っています。

そういったこともあり、「インパクト指標が経営のダッシュボードに載る」ことを目指しています。ダッシュボードに「指標が20個ある」なるとさすがに管理は大変なので、ビジネス側のKPIと同じように、特に重要なものに絞り込んでいく、というようにやっています。

ただ長期的なアウトカムは1社で実現することは難しく、行政や地域社会等も含めた多様な主体が行う取り組みの一翼を担うことになります。その結果、事業との直接的な関連性はどうしても追いきれないことも多いです。そのため、どちらかというと短期・中期のアウトカムのどれを追求すれば長期アウトカムの実現に繋がるといえるのかというように考えています。場合によっては、学術的なエビデンスを探しに行ったり専門家と連携をとることによって、短期・中期指標と長期的なアウトカムが、単なる相関関係ではなく因果関係と言えるかどうかを確認することもあります。

村上:

この取り組みは多くの企業にとって価値あるものだと思います。「何のために事業をやっているのか分からなくなる」というのは多くのビジネスパーソンが感じていることなので、このアウトカムの流れの可視化はいいですね。

加藤:

私も、用途はいろいろあると思っています。ロジックモデルを使うことで、分かってきたことがあります。それは、インパクト投資を受けた企業は、次の投資ラウンド(調達するタイミング)で投資家とのコミュニケーションでロジックモデルを使ったり、営業のツールとして「我々の事業はこういう効果があるんですよ」という風に使ったりしているということです。

さらに、出来上がったロジックモデルを社内のコミュニケーションとして、「我々は何のために仕事してるんだっけ?」ということを伝えることにも使われています。このことを伝えるときにワークショップ的にチームで一緒にやることで、「そっかこのために働いているのか!」と社員が元気になってチームの士気があがったという話も複数社から聞いています。

Deeper 編集長:

個人の観点で見れば、アウトプットは、自分の売上成績であったりとか、お給料なわけですが、実際に自分がこの会社で働いている意義みたいなものはアウトカムで感じられると思うんですね。そこがきちんと言語化されるとよりモチベーションが湧きそうですよね。

加藤:

確かにおっしゃる通りですね。よく言われる「レンガ職人は何のために働いているのか?」の寓話とも似ているなと思います。

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「ある旅人が道を歩いていると、一人のレンガ職人がレンガを積んでいるところに出会った。 旅人が「あなたは、何をしているのですか?」と尋ねると、 レンガ職人は、「見ればわかるだろう。親方の指示で、レンガを積んでいるのだ」と答えた。 旅人が歩いていくと、別のレンガ職人に出会った。 また、「何をしているのですか?」と尋ねると、 二人目のレンガ職人は、「レンガで壁を作っているのさ。家族を養うために」と答えた。 旅人がさらに歩いていくと、また別のレンガ職人に出会った。 また、「何をしているのですか?」と尋ねると、 三人目のレンガ職人は、「皆が集まる教会を作っているのさ」と、目を輝かせながら答えた。」 出所:日本能率協会 https://shikousakugo.jma.or.jp/work/improving-competitiveness2010

第3回では引き続き加藤さんに、インパクト投資は今後社会をどのように変える可能性があるのか、という点をお伺いします。

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