インパクト投資ってなんですか?~社会変革推進財団(SIIF) 加藤さんに訊く(1)
インパクト投資ってなんですか?~社会変革推進財団(SIIF) 加藤さんに訊く(1)

インパクト投資ってなんですか?~社会変革推進財団(SIIF) 加藤さんに訊く(1)

最近SDGsやESG投資という言葉をニュース、インターネット、新聞などのメディアで見る機会が増えたのではないでしょうか。こういった背景を踏まえ、先日の本連載の記事では、トヨタが発行したウーブンプラネット債を題材に、SDGs債やESG投資についての解説を行いました。 今回の記事では、新たなファイナンスの潮流として以前から注目を浴びている「インパクト投資」を扱います。今回は、日本で初めて機関投資家が出資できるベンチャーキャピタル型インパクト投資ファンドとして設立された「はたらくFUND」の運営をしている1社でもある一般財団法人 社会変革推進財団(以下、「SIIF」)の加藤さんにお話を伺いました。
https://hatarakufund.com/

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一般財団法人 社会変革推進財団 加藤 有也さん

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インタビュアー 村上 茂久 株式会社ファインディールズ 代表

インパクト投資とは何か

村上茂久(以下、村上):

本日はよろしくお願い致します。最近SDGsやESG投資といった言葉をよく聞きますが、一方でインパクト投資というのは以下の図表にもあるようにそれ程知名度は高くないようです。

図表1

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私の感覚としては、2015年前後ぐらいでは、インパクト投資の方がESG投資よりもむしろ有名だった印象でした。最近はESG投資が広がっている中、「そもそもどう違うんだっけ?」と感じている人や「初めて『インパクト投資』という言葉を聞いた」という人もいらっしゃると思います。加藤さんの言葉でインパクト投資はどういったものなのか教えていただけますでしょうか。

加藤 有也(以下、加藤):

インパクト投資の定義自体は、「経済的なリターン(利益)を生み出すと同時に、社会課題解決も追求する投資」となります。ここで重要なのは、インパクト投資では、経済的リターン(お金のリターン)に加えて、どのようなインパクトが個人、社会、そして環境に生まれるか、というのを投資判断に組み入れていく点です。ここで言うインパクトとは、専門用語として少し丁寧な定義がなされており、「事業や活動の結果として生じた、社会的・環境的な変化や効果」のことをいいます。

村上:

インパクトが出るかどうかを投資判断に組み入れているんですね。

加藤:

「投資先がたまたま社会に良いことをしてればいいよね」ではなくて、「インパクトを戦略的に生み出し、経済的リターンもファンド目標と合致する企業に投資をする」という点が一般のファンドとの一番大きな違いだと考えています。

村上:

私も以前加藤さんとインパクト投資の案件を具体的に議論させてもらいましたが、その際に「インパクト」に関する議論だけで、数時間〜十数時間を費やしたと記憶しています。そういった経験から、インパクト投資家の方は、他の投資家に比べて、経済的リターンに加えて、「インパクトのリターン」をかなり大切にしていると実感出来ました。「投資の判断に組み込む」というのはまさにこういった議論のことだったんですね。

Photo by Piret Ilver on Unsplash
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投資家と起業家の意図(インテンショナリティ)の合致が重要

加藤:

インパクト投資には以下の4つの要素があります。

  1. Intentionality:意図があること
  2. Financial Retunrs:財務的リターンを目指すこと
  3. Range of asset classes:広範なアセットクラスがあること
  4. Impact Measurement:社会的インパクト評価を行うこと

特にインパクト投資では、投資家側としてどのような社会課題解決に貢献したいかについて「意図」を持つことが何よりも重要です。英語では上述したように「インテンショナリティ(intentinality)」と言いますが、「投資を通じて『世の中にこのインパクトを生みたい』という意図を持って投資する」ということです。

理想的には、「インパクト投資家が目指したい意図」と「起業家が生み出したいインパクト」が合致することで投資が行われるということになります。特にスタートアップ企業では経営陣が企業価値に占める割合は高いので、起業家が目指すものとの整合性は重視しています。

村上:

なるほど、投資家の意図と起業家の意図が合致して、初めてインパクトが機能することになるんですね。

加藤:

ちなみに、結構誤解があるのは、「インパクトさえ生まれればリターンは要らないのか」という点です。決してそうではありません。インパクト投資は経済的なリターンも追求する投資です。

これは重要なポイントで、インパクト投資は寄付とは異なります。すなわち、社会的インパクト投資は経済的なリターンとインパクトの二兎を追う投資なのです。もちろん、経済的リターンとインパクトのリターンのバランスはファンドによって違ってきます。ただし、経済的リターンが要らないという投資ではありません。

村上:

この点は、勘違いされている人が結構いらっしゃるかもしれませんね。ここでファンドの仕組みの説明を踏まえると、ファンドとはざっくりいうと投資家からお金を集めて、上場株、未上場株、不動産などの金融商品に投資をする仕組みですよね。

はたらくFUNDもLimited Partner(通称、LP)からお金を集めて、投資先などを決めるGeneral Partner(通称、GP)がファンドを運用することになるという理解です(図表2)。このファンドの仕組においては、GPは当然LP投資家に経済的リターンを提供する必要があるし、そのうえで社会に対してインパクトも出していく。そういった理解でいいでしょうか。

図表2 ファンドの仕組み

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出所:GSG国内諮問委員会事務局の資料を参考に作成

加藤:

まさにそうですね。LP投資家の皆さんの資金は、財務的なリターンと、社会的なリターンの双方の目標をお約束したうえで、お預かりしています。

インパクト投資とESG投資の違い

村上:

今までお話されていた「インパクト」といったものがSDGsの達成にもつながるという意味では、インパクト投資はSDGsとも関連しているということで良いでしょうか?

加藤:

そうですね、関連しているという捉え方もできますね。SDGsはSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)という名前の通り、目標であり、ゴールです。他方、インパクト投資は手段ですね。「SDGsを達成するためにインパクト投資という手段を使う」という関係性があると言えます。

村上:

となると、最近よく言われる「いわゆるSDGsを目的とした場合、ESG投資が手段になるという点」で一般の人にとってインパクト投資とESG投資の違いがよくわからなくなるのではないかと感じました。例えば、以下の図表3のSIIFの資料には、インパクト投資とESG投資の違いが書かれています。グラデーションはあるものの、かぶっているところもあります。

図表3 ESG投資とインパクト投資

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ESG投資はPRI原則(責任投資原則)の観点で、「投資家から資金を預かっている機関投資家が金銭的リターンを出す必要がある」という文脈の中で、投資家的な視点が大きいと私は理解しています。インパクト投資もある種その文脈もあるとして、ESG投資と出生が別だとしたときに、結局どう違うのでしょうか。加藤さん的にはこの点どう整理されていますか。

加藤:

一番簡単な説明としては、ESG投資は企業自身の事業がもたらすE(環境)とS(社会)とG(ガバナンス)のリスクを財務リターンの判断に組み入れて、投資家が投資判断を下すというものです。

つまり、企業自身が抱えているESGリスクを削減することは長期的な企業価値の向上につながる、すなわち、ESG要素を考慮に入れることで、より株価が上がる投資先を見つけたいという投資だということになります。これに対してインパクト投資は、先ほど申し上げたとおり、投資家自身が特定の社会・環境課題の解決を目指す意図を持って、その課題解決に貢献できる企業を探して投資するというものです。

例えるならば、道が二つあって、一つの道は企業自身の話をしている(ESG投資)、もう一つ道は社会や環境に対して企業が生み出すインパクトの話をしている(インパクト投資)ということになります。

単純化して言えば、ESG投資はあくまでも金が儲かるかを最優先にしているというものになります。インパクト投資はお金が儲かるかどうかという軸と同時に、インパクトをだせるかどうかという軸でも見ています。

この違いが一番大きいと思います。ESG投資とインパクト投資で、重なる部分はあるが、目的と見ているものが違うことになります。

Photo by Volkan Olmez on Unsplash
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インパクト投資の経済的リターン

村上:

なるほどですね。言われてみれば確かに経済的リターンを最終的な目的にしているESG投資と、経済的リターンと社会的リターン(インパクト)の両方を目的にしているインパクト投資とでは全然違いますね。

もう一つ、私が未だによく分かっていない点があります。それは、インパクト投資を説明をみると、たまに「経済的リターンは出すものの、マーケット水準よりも低い経済的リターン」と書かれている場合があります(例えば図表3のピンクの箇所)。ここが先ほどの「経済的リターンはいらないのではないかか」という誤解を生んでいる気がします。

ここはどう考えればよいのでしょうか。もちろん、ESG投資の場合、「マーケット水準よりも低いリターンは許されない」というのはあると思います。

加藤:

仰るように、インパクト投資にはグラデーションがあります。「ESG投資と同様のマーケット水準の経済的リターンで勝負するもの」から、「社会課題解決に繋がれば、経済的リターンはミニマムでいい。ただし、寄付ではない」というものまで幅広くあります。

例えば100万投資して、「リターンは10万でいいけど、その代わり、この環境問題は解決してください」ということもありえます。つまり、投資家側が経済的リターンとインパクトリターンの2軸のマトリックスを持っておき、それぞれのリターンに対して(投資家が)満足するものであればよいというイメージです。

村上:

まさに幅がある感じなんですね。インパクト投資では、「マーケット水準を下回ってもいいから社会的課題を解決しよう」という印象でした。しかし、これはあくまでグラデーションの一部であって、当然「経済的にもマーケットリターンの水準を超えて出していくし、同時にインパクトも出していく」というものも、インパクト投資に入るということですね。

加藤:

はい。仰る通りです。経済的リターンはいくつかの要素に分解できます。例えば、経済的リターンの利率、期間、そしてリターンが出るかどうかの不確実性の3つです。

インパクト投資ファンドによっては、はたらくFUNDのように、例えばファンド期間10年、目標IRR(Internal rate of return、内部収益率)15%〜20%というごく通常のVCとしてリターン水準を設計しているところもあれば、ファンドによっては「IPOやM&Aでリターンは出してもらいたいのだけど、ファンド期間は20年あります」というものもあります。また、いま話題になっているゼブラファンドなどは、IPOはしなくても良いけど、たとえばレベニューシェアで「出資したら売上の一部をコツコツお戻しいただければいいです」「場合によっては株式は必ずしも売却せず、末永くご支援していきます」というものもあります。

なお、ユニコーンとの対比で使われることもあるゼブラ企業とは「社会課題の解決と持続的な経営の両立を目指す企業の総称で、Zebra Uniteが提唱しはじめた自社のみの利益の追求や、株主価値の最大化を目的とした短期的な急成長を伴うIPO等のEXITを目指さない企業」のことをいいます。

このようにインパクト投資の経済的リターンのパターンは非常に多様になります。

村上:

いわゆるベンチャーキャピタルだとマーケットスタンダードが決まっていますよね。例えば、IRRは、二桁の利回り以上で投資期間は10年とかです。投資期間30年とかはほとんど無いと思います。

加藤:

インパクト投資の場合も通常のファンドと同様に「LP投資家が求めているものと企業が生み出せるものが合致すれば成立する」ということです。なので、資金集めの時にファンド運営側がLP投資家の皆さんとどんな約束をするかがカギになります。特にインパクトは定性的な側面もあるため、いかに最初に目線を合わせておけるかはインパクト投資ファンドの成功にはとても重要ではないかと考えています。

Photo by Chris Liverani on Unsplash
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今後インパクト投資はどうやって広まっていくのか

村上:

そういう意味では、インパクト投資においては、投資家と対話する際に、「インパクトリテラシー」ともいえるインパクト投資への理解が今後まずます重要になってくるということでしょうか。

加藤:

そうですね。現状はインパクト投資の黎明期が終わり、ようやく成長期に入ったところです。

GPがLP投資家に出資してもらいたいための営業のコミュニケーションから始めて、LP投資家からは「それは面白いね、どうやってやるの?」というところから会話が始まります。

こちら側(GP側)もインパクト投資の意義をお伝えしながら、投資家にご納得していただいてご出資いただくところです。なので、ゆくゆくは最初から投資家候補の方々とインパクト投資の目的が合致するようになるのが理想です。

村上:

インパクト投資に関して、私が調べたところでは2007年位から始まったばかりです。そのため、そんなにまだ浸透していないこともあり、インパクト投資の概念を知ってもらう中で投資家さんにも理解してもらって投資をしてもらうというところなんですね。

徐々にそれが広まっていくと、まさに先程お話のあったインテンショナリティ(意図)というところもより言語化されていき、投資家も増えていく感じでしょうか。

加藤:

去年の段階でインパクト投資の市場規模を調べたところ、確認されただけで、日本では5,120億円程です。でも、グローバルは同じタイミングで75兆円だったんです。2007年に初めて”インパクト投資”という言葉が生まれてから、日本でインパクト投資をやろうとなったのが、2014~2015年ぐらいなんです。この時間差はかなり大きいです。日本は、この差を早くキャッチアップしていかないといけません。

第2回では引き続き加藤さんに、インパクト投資では社会的インパクトをどのように測るのか、という点をお伺いします。

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Deeper ライターズ

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