宇宙移民は必要ない!? ~増えすぎない地球人口~
宇宙移民は必要ない!? ~増えすぎない地球人口~

宇宙移民は必要ない!? ~増えすぎない地球人口~

公開日
Aug 5, 2021
シリーズ

先日、映画館で「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 第1部」を鑑賞した。 本作は、人類が宇宙空間にまで生存権を広げた未来を描くSFアニメーション、機動戦士ガンダムシリーズ(以下、ガンダム)の最新作である。 美しいグラフィック、迫力ある音響もさることながら、主人公ハサウェイ・ノアの葛藤を丁寧に描いており、最後まで物語に惹きつけられた。

ガンダムの世界観について、少しだけ説明しておきたい。この作品は、私たちの生きている西暦より未来の、宇宙世紀という架空の紀年法が使われる時代が舞台である。たとえば、この「閃光のハサウェイ」は、宇宙世紀105年の物語という設定だ。

そもそも宇宙世紀とは何をもって始まったことになっているのか? 作品毎に若干の違いはあるが、概ね次のような設定になっている(*1)。

地球総人口は90億人を突破し、地球連邦政府は宇宙移民政策を開始。西暦をあらためて「宇宙世紀」を採用した

初代の機動戦士ガンダム(1979年)の冒頭ナレーションも、次の有名なセリフから始まっている(*2)。

人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に半世紀。地球の周りには巨大なスペース・コロニーが数百基浮かび、人々はその円筒の内壁を人口の大地とした。その人類の第二の故郷で、人々は子を産み、育て、そして死んでいった。

つまるところガンダムとは、人口爆発によって地球上だけでの人類の生存と社会の発展が不可能になり、やむなく宇宙移民をした世界で起こる戦争を描いた作品である。 ガンダムが制作された1970年代には、1972年に出されたデニス・メドウズらの報告書「成長の限界」(*3)が世界で大きなインパクトを持って受け止められた。これがガンダムの設定に大きく影響していると想像される。

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成長の限界について私なりにまとめると「人口と資本の成長は等比級数的に増えるが、地球上では物理的制約により必ず限界がやってきて破局を迎えるだろう」という予測である。

また、国連経済社会局の作る人口推計レポートの2019年版(*4)では、「95%の確率で、2050年の人口は94~101億人、2100年の人口は94~127億人の中に入るだろう」と予測している。 2020年現在76億人の地球人口が100億人になるという予測はインパクトがある。人口爆発が起きる、といっても差し支えないだろう。

だが、この人口爆発を否定する別の予測がある。 これを提起したのは、ダリル・ブリッカーと、ジョン・イビットソン。2019年、2人は2050年頃の人口は90億人を超えることはなく、そこをピークに世界人口は減少に転ずるとの予測を出した。上述の国連推計とは大きくかけ離れている。2人はこの予測を書籍「Empty Planet: The Shock of Global Population Decline(邦題: 2050年世界人口大減少)」(*5)にまとめた。以下、この予測をEP予測と記述する。

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私はEP予測に強い衝撃を受け、そして考えた。国連が謳う人口爆発の21世紀後半と、EP予測が提示する人口減少の21世紀後半。どちらが妥当な未来予想なのか?

結論から言えば、私はEP予測、すなわち人口減少する21世紀に1票を投じたい。これは願望からではなく、EP予測の背景にある論理に納得したためである。

EP予測の論拠をまとめると次の2点になる。 (1) 世界中が都市化しほとんどが都市居住者になること。 (2) 世界中で女子就学率が向上し、生みたい子供の理想数の大きく減少すること。

もう少し説明すると、まず(1)都市居住者は、農村居住者と違い、子供が多いことは経済的不合理に働く。ゆえに大多数の人が都市に住む世界では、子供を多く持つインセンティブが働かないために子供が減る。そして(2)については、著者らが世界各地でインタビューした結果、教育水準の高い女子が子供を持ちたい数はせいぜい1人か2人であることがわかった。女子就学率、教育水準向上と社会進出は世界のあらゆるところで不可逆的に早く進んでいる。ゆえに子供が減る。 この2点がEP予測の骨子である。

EP予測のとおりに今後の世界人口が推移するならば、ピークにおいても世界人口は90億人を超えない。その先は、人口減少と老年化の未来が待っている。

人口減少がもたらす課題はいくつかある。筆頭は経済面だ。なぜなら経済成長とは、ほとんどの場合、人口の増加を前提にしている。

たとえば、なぜ日本経済がこの30年間ほとんど成長しないのかといえば、人口が増加から減少に転じる人口オーナス期に入ったことが原因の1つである。この考えに異論を持つ人は少ないだろう。たとえば企業活動に着目する場合、労働生産性が仮に向上しても、労働人口減少が生産の伸びを打ち消してしまう。そして本書でも触れられているのだが、日本は移民を受け入れない国なので、人口の社会増が起こりにくく、自然増(出生数と死亡数の差)がマイナスに転じた今、もはや人口を増やす手段はないのだ。従って、経済成長に関して期待するのは困難といえそうだ。

日本のような人口減少&老年化の先進国のみならず、今は「若い発展途上国」とされている国でもこの人口構造転換が急速に起きる可能性を本書は指し示している。であるなら、世界経済全体が停滞に転ずる日がやってこないとは言えないだろう。

人口減少には良い面もある。わかりやすいところでは、人口が減れば、地球環境負荷が減少することが予想される。もちろん、環境問題がすべて解決するわけではない。仮に総人口が減ろうとも、1人あたりの環境負荷が増大するならば、全体として環境負荷が増えていく可能性は高い。特に発展途上国が豊かになる途上で、1人あたりの環境負荷が増えることは充分予想される。

とはいえ、私たちはこれから、人口減と環境の関係についても視野に入れた上で政策を考えたり、事業を作っていく必要があるのではないだろうか。これまで私たちは「不可避の人口爆発が起きる」前提のみで未来を捉えてしまっていた。しかし現実はそうではないかもしれないのだ。

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最後にガンダムの話に戻る。

ガンダムの世界では、人類は宇宙空間に建造されたスペースコロニー内部で生活するようになる。しかし現在の我々の科学技術水準ではスペースコロニーを造るのは到底不可能であり、おそらく今後数百年経っても困難なままだろう。

一方現実世界では、米国の宇宙企業スペースXのCEOイーロン・マスクが、火星移住計画を構想している。彼は、火星移住こそが人類生存の鍵だ、と主張している(*6)。 だが、これまで述べてきたように人口が増えすぎないのならば、私たちは地球の外に生存圏を求める必要性はない。

むしろ数百年後には「減りすぎた人口をどう増やすか」が、人類最大の課題になっているのではないだろうか?

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