フェムテックのIoTプロダクトに悩みを打ち明けるためのプライバシー
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フェムテックのIoTプロダクトに悩みを打ち明けるためのプライバシー

世界最大級のフェムテックフェス

フェムテックとは、女性の健康・ウェルネスを向上するために開発されたテクノロジー、サービス、プロダクトのこと。日本国内市場の大きな成長が見込まれる領域だ。fermata 株式会社が主催する世界最大級のフェムテックプロダクト展示会 Femtech Fes! 2021 が2021年10月22日から3日間にわたり開催された。

https://hellofermata.com/pages/femtechfes2110

主催の fermata 株式会社は、海外のフェムテックプロダクトを国内販売するスタートアップ。「タブーをワクワクに変える」をミッションに、フェス会場も装飾が施された。世界中から150以上のプロダクトが集結し、1500人以上も来場したそうだ。

Femtech Fes! 2021 エントランスの様子, photo by Yoshihara Tatsuhito
Femtech Fes! 2021 エントランスの様子, photo by Yoshihara Tatsuhito

フェムテックのIoTプロダクト

展示されたプロダクトの中から、身体データを活用したIoTプロダクトを紹介しよう。

息を吐いたら妊娠可能日がわかる breathe ilo

bewathe ilo は呼気を分析して女性の排卵パターンと妊娠可能な時期を特定する、世界初の妊活トラッカー。呼吸に含まれるCO2濃度から、妊娠可能性のある日を簡単かつ高精度に特定する。赤ちゃんを授かりたいカップルの7組に1組が不妊を経験すると言われ、今後さらに増えるとされる不妊領域の開拓に期待が寄せられる。

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ゲームをしながら尿漏れや頻尿を防ぐ Elvie Trainer

Elvie Trainer はアプリゲームをしながら骨盤底筋をトレーニングするデバイス。骨盤底筋とは、骨盤の底にある筋肉の総称。骨盤の中にある臓器を正しい位置に保ったり、尿道を締めて尿漏れを防ぐ機能を果たす。女性の3人に1人、妊娠や産後の女性の80%に骨盤底筋のトラブルがあるそうだ。

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どこにいても心地よい体温でいられる Embr Wave 2

Embr Wave 2 は温冷のレベルを5-60分単位でコントロールし、装着者にとって心地よい温度調整をするサーマルウェルネスプロダクト。更年期を代表する症状の一つがホットフラッシュと言われるのぼせやほてり。自律神経の調整に支障をきたし、血管の収縮・拡張のコントロールができなくなるため、急に顔が熱くなる、または汗が止まらないなどが起こる。スマートフォンではホットフラッシュの回数や体温変化が可視化される。

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薬の飲み忘れを教えてくれる Aavia

Aavia はアプリと連動したケース内部のセンサーにより、何時にピルを飲んだかを正確に記録し、飲み忘れの際にはリマインド通知をする低用量ピル専用のスマートケース。低用量ピルとは、避妊効果が非常に高く、生理痛や月経前症候群(PMS)にも効果がある錠剤。接種者は毎日1錠飲むことで効果を得ることができる(生理期間中に飲まないタイプもある)。

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男性社会からの変容

なぜ今フェムテックが注目を浴びるのか。世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が2021年3月に発表したジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)を見てみよう。2021年の日本の総合スコアは0.656、順位は156国中120位。先進国の中で最低水準、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国よりも低い結果となった。

「共同参画」2021年5月号
「共同参画」2021年5月号
「共同参画」2021年5月号
「共同参画」2021年5月号

日本に限らず、男性社会からの脱却は課題が多い。「男性前提」だったサービスの研究開発や制度設計には改善が必要である。たとえば自動車業界。「女性が自動車事故に遭った場合は、身長、体重、シートベルト使用の有無、衝突の激しさなどの要素を考慮しても、重症を負う確率は男性よりも47%高く、中程度の傷害を負う確率は71%高い。さらに、死亡率は17%高い」と結果が出た。

男女平等を実現するには、意図せず不平等を設計してきたことを自覚しなければならない。もう一つの例は、ヘルスケア業界から。米国の食品医薬品局(FDA)が承認した86の薬で性差に起因する副作用が見つかった。過去に実施された臨床試験で女性またはメスのサンプル数が不十分だったと指摘される。しかし現場では、男女ともに同じ用量で処方されたため、女性に深刻な副作用が起きた。

いいサービスを作るには、研究開発の過程にある"無意識の偏見"に気づく力、アウェアネスが欠かせない。性別だけでなく人種、民族、年齢、及び教育レベルに応じてデータのバランスが取れなければ、素晴らしいテクノロジーもユーザーに望ましい結果をもたらさない。これまで不在とされた女性のデータが取り込まれ、制度設計や研究開発に用いられるのは望ましい。

パーソナルなデータを扱う事業者への警鐘

女性特有のデータには、月経、性生活、妊娠、出産、流産、育児、更年期障害といった非常にパーソナルな領域がある。これらのデータを安全に保管すること、アルゴリズムに透明性をもたらすこと、ユーザーがデータの用途を理解することなどが企業努力に欠かせない。ここではヘルスケア・フェムテック領域で第三者機関から業務改善を要請された事例を二つ紹介する。

画像診断センター CEDICO による保険会社への情報提供

スペインにある画像診断センター CEDICO, CENTRO DE DIAGNÓSTICO POR LA IMÁGEN, S.L. (以下、CEDICO) は法人、公的機関、民間機関などの顧客に医療診断と疾病予防のために放射線を用いた画像診断サービスを提供する(chsalud サイトより, 2021/11/4閲覧)。ある会社に勤務する男性が、仕事中の事故について膝のMRI検査を CEDICO に依頼し、病気休暇を取得するため保険会社に連絡した。CEDICO は保険会社に医療記録を提供する際、本件より前に発生した勤務時間外の怪我によるMRI検査結果を提供したため、保険会社は男性が就業できない理由が勤務時間外にあるとして病気休暇を与えなかった。本件は完全性と機密性に対する違反として CEDICO は18,000€の罰金を命じられた。(GDPR Enforcement Tracker より翻訳, 2021/11/4閲覧)

月経管理・妊活アプリ Flo によるマーケティング利用

身体的女性を対象にした健康アプリ Flo を提供する Flo Health 社(米国)はユーザーの健康データを非公開にすると約束したにもかかわらず、数百万人のアプリユーザーから得たデータを、Facebook や Google を含むマーケティング会社や分析会社に共有したと苦情が出た。米連邦取引委員会(FTC)は、Flo Health が、同社のアプリユーザーの情報を他社と共有する前に、ユーザーの同意を得ること、およびプライバシー施策の外部審査を義務づける和解案を決定した。(FTC より翻訳, 2021/11/4閲覧)

特にアプリが無料の場合、サービスを受ける代償にデータを提供することが多い。提供したデータが誰の手に渡るか、アプリがスマートフォンの中にある他の情報を取得するかをユーザーが心配するのは当然のこと。データの処理者が誰かによって、ガン保険の加入審査が厳格化したり、ローンの金利が上がったり、職場で差別されたりする。妊娠差別が懸念される環境で月経・妊活データが出回ってほしくないのは想像に難くない。

テクノロジーに悩みを打ち明けるためのプライバシー

Femtech Fes! 2021 では来場者のプライバシーに配慮する設計が見受けられた。家族や恋人など親しい間柄でも話したことのない話題に向き合うには、来場者の心理的安全性が欠かせなかっただろう。スマホで誰もが撮影できたがゆえに、来場者全員に等しく取材・撮影の写り込みに対する意思表明をエントランスで問われた。入場後も、主催者の配慮が各所に感じられた。

スタッフ・来場者が着用した二種類のリストバンド photo by Yoshihara Tatsuhiko
スタッフ・来場者が着用した二種類のリストバンド photo by Yoshihara Tatsuhiko
コミュニケーションを促すカードホルダー
コミュニケーションを促すカードホルダー

セクシャルウェルネス、妊活・不妊、更年期障害、月経など、社会が置き去りにしてきた領域に光が当たろうとしている。誰にも打ち明けてこなかった悩みがそこにある。

💬

「下着の締め付けが苦しい」「生理痛がつらい」「膣が乾燥する」「性行為が痛い」 「パートナーに理解してもらえない」「経血の固まりが出た」「汗をかきやすい」 「どうやったら妊娠するの」「不正出血がきた」「便秘になりやすい」 「乳がんの検診にいつ行こう」「出産してから尿漏れがひどい」

これから訪れるのは、テクノロジーを通してサービスプロバイダーに身体の悩みを相談する未来だ。サービスプロバイダーは、親友のようにユーザーに寄り添うことができるだろうか。心を許しあい、理解しあう信頼関係を作れるだろうか。親友になるには、ユーザーのプライバシーを守ることは最低限必要だ。セクシャル・ヘルスケアにまつわる行動、嗜好、意思を聞いて、それを誰に言うか、何に使うかが問われる。"トラスト"をどう設計するのだろう。プライバシーの実装は、フェムテック業界が必ず直面する壁になる。

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執筆者

Deeper ライターズ

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