オランダでLGBTQ+を「差別」した人はどうなる?多様性先進国の法律とケース
オランダでLGBTQ+を「差別」した人はどうなる?多様性先進国の法律とケース

オランダでLGBTQ+を「差別」した人はどうなる?多様性先進国の法律とケース

日本でもクローズアップされるLGBT法案

前国会で提出が見送られたことが話題となったいわゆる「LGBT法案」。

具体的な「差別」の扱いの方向性がまとまらなかったことが大きなボトルネックのひとつとなったようで、個人的には「もったいないなあ」という思いで母国のニュースを見送った。

倫理的・宗教的な理由で他人のセクシュアリティを独善的に批判するような人が少ないのは、世界的に見ると結構レアな日本の美点だと、海外に住むようになってから気づいた。最近の調査をいくつかざっと見ても、だいたい国民の7割程度が同性婚を「認めるべき」と回答しているようだ。

だからこそ国民の意識に法整備が追い付いていないのはもったいないなあと、9,000km離れたオランダの田舎で老婆心全開で今後の動きを見守っているが、今後どうなっていくだろうか。

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「多様性先進国」オランダ

一方ここオランダは、世界の中でもさまざまなセクシュアリティに最も寛容な国のひとつ。

同性婚が世界で最初に合法化された国でもあるし、セクシュアリティによって個人や集団が差別されることは、憲法・民法・刑法・その他国際法などによって何重にもぐるぐるに禁止されている(あとで詳しくお話ししたい)。

社会の価値観としてもおおむね寛容。現時点で国民の9割以上が同性婚に賛成で、プライド月間の6月は街のあちこちがレインボーに染まる。アムステルダムの世界最大のレインボープライドパレードを何かのニュースで目にしたことのある人もいるかもしれない。

今年6月には、うさこちゃんことミッフィの故郷ユトレヒトに世界最長のレインボー自転車道が完成した。

https://www.gaycities.com/outthere/54157/netherlands-just-unveiled-longest-rainbow-bike-path-world/

6歳や8歳の筆者の子どもも学校で、どの先生がゲイで、どの子どもがトランスジェンダーで、どの子の両親が同性カップルであるか知っていて、そういうこともあるのだと当たり前に受け止めている。純日本人の筆者などは「それ5歳児に言うんだ?!」としばらく驚きの連続だったくらい明け透けに話し、「人それぞれなのだから、お互い認め合うように」とセクシュアリティや個性の自由を頑として保証する教育のたまものかもしれないし、「多様性に寛容で先進的」であることを大きなアイデンティティとする国民性のおかげもあると思う。

オランダで起きたLGBT差別ケースと加害者の処分

しかしオランダにも、もちろん差別がないわけではない。

有名どころは2017年に東部の街アーネムで、ゲイのカップルがモロッコ人の10代の少年のグループに暴行されて重傷を負った事件。その後、多くの政治家を含む成人男性がLGBTコミュニティとの連携を表明するために、手をつないで街を歩く大規模なデモンストレーションに発展した。

最近では世界がパンデミックしたてのコロナに戦々恐々としていた昨年(2020年)5月にも、国民の注目を集めた差別事件があった。

アムステルダム東地区のスーパーの前で、とある男性同士のカップルに若者の集団が絡み、「カンカーホモ(カンカーとはkanker=癌のことで、オランダ人の子どもが大好きなののしり言葉である)」「異常」などと暴言を吐き、蹴るなどの暴力をふるい、事態を収めようと介入した通行人の女性を突き飛ばした。カップルの一人が警察を呼ぶと少年たちは逃走したが、警察が来る前にまた少年グループのうち2人がスクーターで戻って来て、唾を吐いて逃げたという。

この事件はほぼ一部始終が被害者が撮影した動画に収められ、SNSで拡散したことで認知が拡大した。さらに加害者の一人である15歳の少年が逮捕される前にとあるお騒がせ系Youtuberのインタビューを受け、「カップルの方が先にムスリムを侮辱するようなことを言ってきた」などと一方的な言い分を発信したことが火に油を注ぐ結果となった。

https://www.youtube.com/watch?v=sDHTNdqhI9o

少年の台詞に唐突に「ムスリム」が出てきているので少し説明しておきたいのだが、移民の流入により現在オランダ国民の5%をイスラム教徒が占めていて、この少年もその出自から中東系の(ムスリムだと見なされがちな)容姿をしている。そしてご存じの通り同教において同性愛は許容されていない。

アムステルダム東地区ではレインボーフラッグに火炎瓶が投げつけられたり同性カップルが暴力・暴言を受けたりといった事件が頻発しているが、その多くがさまざまな価値観を持つ移民の子どもや、マッチョな若者集団によるものとされている。

しかしインクルーシブを目指す社会としては、不寛容な価値観を本人のルーツのせいにしても社会課題の解決にはならない。不寛容な価値観の存在も内包しつつ、誰も人権を侵されることなく共存する道を模索しなければならないのだ。この辺は両立が難しいところで、例えば学校法人などでは、宗教(イスラム教にしろキリスト教にしろ)に基づいた価値観を教育することは容認されているが、それによって職員や生徒を差別することは禁止されている。

まだまだ課題が残るところではあるが、これらの事件を受けてアムステルダム東地区の議会は、とり急ぎLGBTサポートを表明するためレインボーフラッグの常時掲揚を決定したほか、警察のおとり捜査によるパトロールなども検討中だという。

Photo by Sara Rampazzo on Unsplash
Photo by Sara Rampazzo on Unsplash

加害者の処分は?

さて気になる加害者の処分だが、結論から言ってグループの全員が個人への侮辱の罪と、被害者が受けた精神的苦痛に対する補償を求められた。起訴は暴行罪と集団侮辱罪でなされたものの、被害者に身体的な怪我がなかったことや、同性愛者全員ではなく特定の個人に対する侮辱であったことから却下されたようだ。

グループのうち21歳と22歳の二人に関しては、事件から1年後に30時間と50時間の懲罰的社会奉仕と、カップルへの400ユーロと500ユーロの賠償金の支払いが命じられた。

またわざわざYoutubeで世界に顔をさらしてしまった15歳は、合計850ユーロの賠償金と25時間の保護観察、35時間の差別と侮辱に関する教育の受講が決定した。件のインタビュー動画は話者の少ないオランダ語で行われているのに30万回以上視聴され、約8000件の低評価がついている。一連の騒ぎと一生消えないデジタルタトゥーが自分の人生にどんな社会的影響を与えるのか、これから身をもって知っていくことになるだろう。

Photo by Rene Böhmer on Unsplash
Photo by Rene Böhmer on Unsplash

セクシュアリティと差別をめぐるオランダの法律

さて上記のような「処罰」を決めるのは主に刑法だが、この国では先述のようにその他にも様々な法律が差別を禁止し、平等を保証している。

まずは私たち日本人にもなじみ深い憲法における基本的人権の保証。第一条に「オランダにいる全ての人は平等に扱われる。宗教、信念、政治的意見、人種、性別、またはその他の理由による差別を禁止する」とある。この条文に明記されている差別理由に「障害」と「性的指向」のふたつを加える改正案が去年から今年にかけて下院と上院で承認され、現在会期中の国会で通過する見通しである。

刑法では「あらゆる理由の差別」が禁止され、処罰(拘禁または罰金)の対象とされている。その中でも特に「人種、宗教、信念、性別、および性的指向」に基づいて職業上(雇用や商品・サービスの提供など)の差別をした者、もしくはヘイトスピーチをした者には、最大2か月の拘禁または第3カテゴリーの罰金(8,200ユーロ=10万円強)が課せられる旨を特別に明記した項目がある。(蛇足ながら、他者に危害を与える可能性のある小児性愛者や動物性愛者は保証の限りではない。)

その他にも様々な「差別禁止法」があるが、LGBT関連で最も大きな影響があるものは1994年に憲法第一条の下位項目として制定された「平等待遇法」。あらゆる差別の禁止を詳細に説明した項目だが、その中に「同性愛または異性愛の違い」による差別の禁止が明記されている。現在それを「性的指向」という言葉に置き換え、さらに「性同一性による差別の禁止」を加えるための法改正が進んでいる。

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戸籍やパスポートへの「第3の性」の記載は1993年から、性別適合手術なしの戸籍の性別変更は2014年から、同性夫婦による養子縁組は2001年から合法化されている。

最新の法改正では、2021年秋に同性の配偶者と生活する人に従来課せられていた献血する際の制限が撤廃される予定だ。

さらに差別禁止のための様々な国際法にも批准しているが、きりがないのでとりあえず「オランダでLGBT差別をしたら面倒なことになる」とだけ覚えておいてもいいかもしれない。

オランダがどれだけリベラルな国でも、人種だ性的指向だと差別する人はそれなりに存在する。ただこういった一連の法律があることで、個人的にどんな考えを持つ人もともかく差別は社会的・道徳的に望ましくないことだというコンセンサスを持っていることが大きな抑止力になっている。そして万が一差別が起きた場合も、被害者へのダメージが最小限に抑えられる。生活している中での体感としてはそんな感じだ。

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こんな国でもソドミーは死刑の時代もあった。現在の法整備までの経緯

さてこんな国でも一応はキリスト教国。やぶからぼうに恐縮だが、18世紀までソドミーは死刑だったし、1700年代に大規模な「ソドミー狩り」が行われた後ろ暗い歴史もある。

しかしその頃から罰の重さで悪評高かったオランダのソドミー法は、1811年にオランダを制したフランスが自国の憲法を持ち込んだことにより廃止。第二次世界大戦中にドイツがオランダに侵攻した際に同性同士の性行為を違法としたが、終戦と同時にその法律も廃止された。

20世紀の後半に宗教離れや多様性への気づきなど時代の流れで国民の同性愛への抵抗が薄れて行き、それを追う形で聖職者や精神科医が性の多様性を公式に認め、それに法改正が追従した流れは多くのヨーロッパの国と同じだ。

ただオランダは「世界は神が作ったかもしれないが、オランダはオランダ人が作った」という格言があるくらいに独立心に富み、ヨーロッパの中でも比較的早く宗教的な倫理観から人心が離れた国。自由と人権を重んじる国民性や、フットワークの軽い政治も、先進的な法整備を後押ししたかもしれない。

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1998年にデンマークに次いで同性のパートナーシップを承認した時も、さらに歴史的な2001年に世界で初めて同性婚が合法化された時も、国民の反応は「合法で当たり前だ」と冷めたものだったという。

それでも今日のような体制が整うまでの道のりが100%平坦だったわけではない。事実2000年に上院で同性婚法の決議がなされた際には、キリスト教系の政党が全員反対票を入れたため、49対26と3分の1以上を反対が占めていた(純日本人の筆者などは、いくらそういう政党とはいえ政治家がそこまで堂々と宗教的信条を政治に持ち込むんだ?!と驚いてしまうのだが、みなさんはどうだろうか)。

当時の政治家が教育を受けた時代はまだまだキリスト教的倫理感がベースにあったため、合法化賛成に票を投じた政治家の中にも、世界からの反応や神からの罰に不安を抱くものが少なからずいたという。

オランダ最大のLGBT権利団体・COC Nederlandの理事Koen Van Dijk氏は、豪ガーディアン紙に「オランダは、同性婚反対派が形を成す前に世界に先駆けて同性婚を合法化してしまったからこそ、妨害や反発を免れたのだと思います」とコメントしている。

実際、合法化から5年後の2006年には、国民の同性婚支持率はたったの53%になるなど、若干の揺り戻しも起きた。

オランダが「世界でもっともLGBTフレンドリーな国」になった背景には、もちろん国民性や社会システムもベースにありながら、運というかタイミングと勢いもあったのかもしれない。

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話題のカップルのその後

さて先ほどお話した事件の被害者となったカップルだが、その後も「ホモフォビア・ファイター」を自称してSNSなどでメッセージを発信し続けている。

2020年度の「LGBTインフルエンサー大賞」を受賞したほか、多数のテレビ番組にも登場。そのうちのひとつでは婚約を発表し、「婚約指輪の代わりにこれをおそろいでしている」と、日本のアニメ「NARUTO」の木の葉マークのペンダントを二人で幸せそうに司会者に見せていた。

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最後に、筆者が個人的にとても好きなオランダの元政治家のコメントを紹介したい。

発言したのは同性婚法可決当時キリスト教民主党党首で、先陣を切って反対票を投じたHannie van Leeuwen氏。数年後に受けたインタビューで当時を振り返って言ったものだ。

「同性結婚に反対したとき、私は何かに怯えていたのです。しかしその後多くの同性カップルが幸せに結婚していく姿を見て、私は間違っていたと悟りました。(中略)今となってはもう、当時の自分が何を考えていたのか分かりません」。

オランダももちろん桃源郷ではない。でも国民の「全ての人は幸福であるべきだ」という信念が、国のリーダーたちの尻を叩き続けている。

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