多民族・多文化国家ニュージーランドに見る5つのダイバーシティ・インクルージョン具体例
多民族・多文化国家ニュージーランドに見る5つのダイバーシティ・インクルージョン具体例

多民族・多文化国家ニュージーランドに見る5つのダイバーシティ・インクルージョン具体例

多様性(ダイバーシティ)について語られることが増えました。多様性には性別や年齢、人種といった目に見える比較的わかりやすい多様性と、国籍、障がいの有無、性的指向・性自認、宗教、価値観、嗜好、言語、教育といった表面的にはわかりづらい多様性があります。

この記事では、多様性に富むと言われるニュージーランド(以下、NZ)の5つの具体例

  1. 議会
  2. 同性婚
  3. 公的な書類の性別表記
  4. 子ども向けの人形
  5. 言語

を紹介したあと、多様性が認められているNZで起きた2つの事件を振り返り、事件後の動きについても触れたいと思います。

1. ニュージーランド議会

2020年10月に行われた国政選挙で、これまでで最も多様性に富むと言われる議会が誕生しました。議会の具体的な内訳を見てみましょう。

NZ議会には120の議席があり、そのうちほぼ半数にあたる59名が女性です。原住民であるマオリの権利を主張するためのマオリ党は2議席、アフリカとスリランカからの移民がそれぞれ1議席ずつ持っています。

また120議席の1割にあたる12人が性的少数者であることを公表しています。性的少数者とは例えば同性愛者や、生物学的な性別と自認する性が異なる人などのことです。

次に、NZの人種構成を確かめてみましょう。

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全人口のうちヨーロッパ系人種の割合が7割を占め、主流となっています。次いで原住民であるマオリが16.5%、アジア系15.1%、パシフィック諸国からの移住者8.1%、中東・ラテンアメリカ・アフリカ系移民などとなっています。

NZ議会の120議席中、女性が約半数を占める点は社会の実態をほぼ反映していると言えるでしょう。人口における人種の割合を議会に反映させるためには、マオリが14議席、アジア系が13議席必要です。実際にはマオリが2議席、アジア系は1議席となっており、議会ではまだヨーロッパ系人種の比率が高いと言えます。

なお、図中の数字の合計が100%を超える理由は、自身の出自が2つ以上にまたがると答える人がいるためです。*1

2. 同性婚

NZで同性同士の結婚が法律で認められたのは2013年4月、施行されたのは同年8月です。当時、NZ議会で行われたモーリス・ウィリアムソン議員の「ビッグ・ゲイ・レインボー・スピーチ」と呼ばれるスピーチをご覧になった方がいらっしゃるかもしれません。

2013年8月以来、同性同士で結婚したカップルは毎年、900組前後です。

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同性婚を含む国内での結婚は、2013〜2018年の間で年間2万件ほどとなっており、同性婚はおよそ4〜5%ほどを占めることがわかります。

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NZに暮らして10年になる筆者はこれまで5回引っ越し、現在6軒目の家に住んでいます。このうち2軒目の家の隣には、ゲイの男性が住んでいました。また3軒目の家の大家さんは双子の子どもがいる女性同士のカップルでした。都市部に暮らしているせいもあるかもしれませんが、街中で同性カップルが手をつないで歩いている場面を見かけることもあり、同性カップルが市民権を得ているのを感じます。*2

3. 公的な書類における性別表記

先日運転免許の更新に行ったところ、免許証の申請(更新)書類の性別欄は、男性・女性のチェックボックスに✔︎点を入れる形ではなく、テキストボックスに、male(男性)、female(女性)などと記入する方式が取られていました。

NZの交通局によると、従来は男性・女性のみの選択肢だったところ、自分で選んだ性別を記入できるように変更したとのことです。登録した性別の変更をしたい場合には、交通局に連絡すれば変更が可能です。ただ、免許証に性別の表示はありません。

男性、女性以外の具体例としては、身体的な性別と自認する性別が異なるトランスジェンダー(Transgender)、 性自認が男性にも女性にもあてはまらないXジェンダー(Gender X)、男性 ・女性といった枠組みをあてはめないノンバイナリー(Non-binary)などがあります。

参考までに、免許証の申請(更新)書類のフォーマットをお見せしましょう。

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公的な書類だけでなく、問診票やアンケートといった性別を問われるほぼすべての場面で、男女2つの選択肢から選ぶ形式ではなく、男性・女性・その他(other)から選ぶか、男性・女性・その他に加えて、回答しない(Prefer not to say)を含む4つの選択肢が用意されている、もしくは免許証更新用の書類と同じように、自認する性別を自由に記入する形になっています。*3

4. 車椅子や松葉杖、義足、視覚・聴覚障がい者、ダウン症、白人から黒人まで揃う子ども向けの人形たち

小さな子どもたち向けの人形や、バービー人形にも日本とは異なる特徴があります。

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出典:Dolls|Kmart

上の写真は、手頃な値段の生活雑貨が揃うK martというショップのウェブサイトで、人気順で「人形」を検索した結果です。右上と下中央の女の子が車椅子に乗っているのが見えるでしょうか。左下の4人は左から義足、松葉杖、視覚障がい者、聴覚障がい者です。4人の肌の色は少しずつグラデーションになっています。

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出典:Dolls|Kmart

このページの左上と上中央がそれぞれ白人と黒人のふたご、下中央はダウン症の女の子です。写真には出ていませんが、ダウン症の人形は男の子も選べます。

一方、日本のアマゾンでレビューの評価順で「人形 本体」を検索した結果は下のとおりです。人の形をした人形では白人が多く、黒人のバービー人形はいましたが、身体に障がいのある人形は見つけられませんでした。

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5. 多様な言語

最初に見たようにNZは移民国家であるため、国内で話されている言語は50に上ります。英語の次に話者が多いのはマオリ語で、サモア語、中国語と続きます。

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移民が生活を始めるにあたって必要不可欠な情報や、暮らしの中で必要な手続きをそれぞれの言語でサポートする組織を2つご紹介しましょう。

INFO NOWでは、NZで生活する上で必要な教育や仕事、住宅、英語教育、医療などの情報を17の言語で提供しています。電話やEメール、オンラインチャットでのサポートがすべて無料です。

政府機関や地方自治体、医療関係者とのやり取りに通訳が必要な際には、電話での会話に通訳が入ってくれるEZispeakと呼ばれるサービスがあります。EZispeakは24時間いつでも対応可能で、300を超える言語でファイナンス・保険・医療などの分野に対応しています。

またコロナに関する情報は2021年12月現在、38言語で提供されています。

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ここまでは、NZの多様な議会と同性婚、公的な書類上の性別表記、子ども向けの人形と言語の多様性について見てきました。次に、多様性があると考えられている社会で起きた2つの事件について見ていきます。

男子高校生が髪の長さを理由に出席停止処分に

2014年に高校生の男の子が、髪が長いことを理由に学校から出席停止を命じられました。校則には髪について「襟にかからず、目にかからないように」といった文言があったため、彼は伸びた髪を結ぶと申し出たにもかかわらず、学校側は主張を曲げなかったとのことです。彼の両親が裁判所に訴え、出席停止処分は不当だったとの判決が出ました。

NZの学校は公立校でも制服がある学校が多いものの、さまざまな人種が存在するため、髪の色も肌の色も多種多様な印象を受けます。また同じような年齢でも身長も体重も大きく異なるため、制服のサイズも幅広く用意されています。

日本では校則で下着の色にまで言及されることがあり話題になっていますが、このニュースを見たときには、NZの学校でも髪の長さが問題になることに驚き、違和感を覚えました。*4

クライストチャーチでムスリムのモスクが襲撃される

NZで3番目に人口の多い都市、クライストチャーチで襲撃事件が発生したのは2019年3月15日です。襲撃を受けたのはイスラム教の礼拝堂で、51人が犠牲になりました。犯人はオーストラリア国籍の白人至上主義者の男性です。

事件当日、ジャシンダ・アーダン首相は犠牲者への哀悼の意を表し、この日を「ニュージーランドで最も暗い日の1つ」としました。アーダン氏は事件後、イスラムの女性がかぶるヒジャブ姿でイスラム教のリーダーを訪問したり、追悼集会に参加したりしたことにより、ノーベル平和賞の候補として注目されました。

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一方、この行動については、イスラム女性からの批判があったりパフォーマンスであるとの評価があったりと、賛否両論があります。ただ、犠牲となったイスラム信者を指して「彼らは私たちだ」(They are us.)と述べ、移民であるイスラム教徒らをニュージーランド国民だと強調することで、国内におけるイスラム信者の断絶を招かなかったのが彼女の行動の結果であるのは間違いありません。

また事件の動画を拡散しないよう呼びかけ、さらにメディア上で犯人の名前を口にしないことで、イスラム過激派と白人至上主義者、両方の暴走を避け憎悪の連鎖を防いだ功績は大きいと考えられています。*5

NZ警察の制服にヒジャブ導入

2020年11月、NZ警察の制服にヒジャブが追加されました。ヒジャブを初めて着用したのはフィジーで生まれ、子どもの頃にNZに移住したコンスタブル・アリ。彼女が警察官を目指すきっかけは、2019年3月にクライストチャーチで起きたモスク襲撃事件だったといいます。

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アリ氏は、ヒジャブを着けた警察官という自分の存在によって、イスラム女性の職業の選択に警察官が含まれるようになるといいと考えているそうです。

NZ警察の広報担当者は制服へのヒジャブの導入によって、NZの多様なコミュニティを反映した、公平かつ公正で、誰をも排除しない警察組織を目指しており、またイスラム教徒の女性にとって、警察官が職業の選択肢の1つになることを願っているといいます。*6

最後に

移民国家であるNZの、多様性に富んだ社会の具体例をご紹介しました。NZの多様性はなぜ生まれたのでしょうか。その理由の1つには、さまざまな人がいること、さまざまな価値観が存在することを知ってそれぞれを認め合うルールを作ってきたことがあるのかもしれません。この記事が、多様性を考える一助になるといいなと思います。

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執筆者

Deeper ライターズ

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