トイレをめぐる裁判から、真の「インクルージョン」について考える
トイレをめぐる裁判から、真の「インクルージョン」について考える

トイレをめぐる裁判から、真の「インクルージョン」について考える

ライター
公開日
Dec 23, 2021

人は、1日に何回トイレを使うだろうか。一生のうち何回トイレに行くだろうか。数え切れないだろう。

トイレは生活に欠かせないものだが、性同一性障害を持つ人は、男性用トイレと女性用トイレ、どちらを使うのか。

今年5月、東京高等裁判所でひとつの判決が出された。

舞台は経済産業省。性同一性障害の職員が、戸籍上の性別ではなく、本人が自認している性別どおりにトイレを自由に使えない経済産業省の措置を取り下げるよう、訴えを起こしたものである。

さて、裁判所はどのような判断を下したのか?

トランスジェンダーの多くがトイレ利用で困っている

LIXILが過去に実施した「性的マイノリティのトイレ問題に関するWEB調査結果」によると、トランスジェンダー全体の約65%、LGB全体の16.5%が「困る」「ストレスを感じる」と回答している(図1)。

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図1 トイレの利用について(出所:「性的マイノリティのトイレ問題に関するWEB調査結果」LIXIL)https://newsrelease.lixil.co.jp/user_images/2016/pdf/nr0408_01_01.pdf p11

困る・ストレスを感じる理由は以下のようになっている(図2)。

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図2 トイレ利用で困る・ストレスを感じる理由(出所:「性的マイノリティのトイレ問題に関するWEB調査結果」LIXIL)https://newsrelease.lixil.co.jp/user_images/2016/pdf/nr0408_01_01.pdf p13

周囲の視線が気になる、また、選択肢として「だれでもトイレ」=多機能・多目的トイレを利用したとしても、それはそれで気まずさを感じてしまっている人がいるのだ。

問題はそれだけではない。

トランスジェンダー全体の4人に1人が排泄障害を経験しているという*1。

トイレ利用のストレスや、トイレに行くのを我慢してしまうことが便秘や頻尿などに繋がっている可能性がある、とこの調査では分析している。

確かに自分だったらどうだろうか、と考えると、毎日の外出じたいが嫌になるだろうなあと思う。外出恐怖に陥ってもおかしくないとすら思う。

そのような中で行われたのが、件のトイレ利用をめぐる裁判である。

外見上も女性だが・・・

訴えを起こしたのは、戸籍上は男性、性自認は女性で性同一性障害を持つ経済産業省職員である。

戸籍上の性別変更はしていないが、職場に自らの性自認を説明し、外見上も女性同様で勤務しているという状況のなかで、庁舎内の女性用トイレを使用することに制約を設けられた。

職員は、自分の性自認に対応するトイレを使う自由を制限している経済産業省の措置を中止するように人事院にも要求したが、人事院は対応しなかったという。

しかし、自らの性自認に基づいた性別で社会生活を送ることは法律上保護されている権利であり、よって経産省の措置は取り消されるべきであるというのが職員の主張である。

一方の経済産業省はトイレ利用について、職員にはこのように説明している。

まず、経済産業省としては、この職員が将来的に性別適合手術を受けることを希望しているという事実や、手術に至っていない理由なども適宜確認をしている。

その上で、職員が戸籍上の性別を変更しない限り、将来の異動先で女性トイレを使うには女性職員に説明をして理解を得る必要があるという枠組みを、職員の主治医とも相談の上で策定し職員に伝えたという。

東京高裁はこの件について、職員の訴えを却下した。

経済産業省の措置は著しく不合理とは言えない、という判断である。

判決については様々な意見があるだろうが、この裁判が他の公的機関や企業に問題を投げかけるものであってほしい。

職場というのは、人生の多くの時間を過ごす場所なのである。

「男女兼用」でことは解決するのか

NYでは「オールジェンダー・トイレ」が普及しつつある。飲食店などの1人用の個室トイレについては、「男性」と「女性」の看板をユニセックスの看板に置き換えることを求める法案が2016年に採用されている*2。

日本よりも性的マイノリティに対する理解が高いという事情も背景にあるだろう。

一方で日本の飲食店などでよく目にするのは、個室トイレを「男性用」「女性用」「兼用」の3つに分けている光景だ。

これまで筆者は、この「兼用」の存在によって、このトイレ問題はある程度解消されているのではないかと考えていた。しかし、上記のアンケート結果などを見ると、それは短絡的なものなんかもしれない。

筆者の場合、女性用が混んでいれば兼用を利用する。しかし、自分がトランスジェンダーの当事者だったらおそらく事情は異なるだろう。

どちらも空いているのに真っ先に兼用を選ぶ、という行為は、通常以上に周囲の視線が気になる当事者としては、逆に抵抗があるという人が出てきそうだ。

真の「インクルージョン」のヒント

そこで、重要なのは「ダイバーシティ」よりも「インクルージョン」に重きを置く発想ではないだろうか。

エコモ財団によると、日本では有明アリーナなどに「誰でも使える」トイレを設置しているという。中には個室の中で、便器の周りを区切っているものも存在する。その意図は何か。

これらの男女兼用トイレを利用する人として、以下のような想定があるのだ*3。

  • 発達障害者=トイレのマークが場所によって異なると、どちらが男性か女性かわからず混乱する場合があるので、判断しなくて良いトイレがあると助かる。発達障害児の場合は、トイレの使用時に介護を必要とする場合があるが、その介護者が異性の場合には、カーテンの存在によって一緒にトイレに入りやすくなる
  • 知的障害者=介助者がトイレに入っている間に、本人がどこかに行ってしまったり、知らない間にトラブルを起こしたりしてしまうことがある。性別が違っても介助者と一緒にトイレに入りやすくなる。
  • トランスジェンダー=外見(中性的など)を気にせずトイレを使いやすくなる。

誰がどんな事情でその個室に入っても、外からは分かりにくい設計を目指しているのだ。

また、母親が小さな男児のおむつ替えをする、逆に父親が小さな女児のおむつ替えをする、そういった時にも役立ちそうだ。

この事例から学びたいのは、形式的な「男性か女性かそれ以外か」といった枠を排し、また、それ以外の可能性も視野に入れた設計思想である。

雑な言い方をしてしまえば、「すべてを包括する」発想を地で行く形と言える。

ところで、ずいぶん前にネットである話を知った。

学校の授業で、ある生徒が「障害のある人もいてもいいと思います」と発言したところ、教師が「いてもいいんじゃなくて、いるんですよ」と返したという。

「マイノリティに配慮する」という言葉からは、時々「譲歩」の雰囲気を感じることがある。

その根底から変えていかなければならないのだろう。

*1

「性的マイノリティのトイレ問題に関するWEB調査結果」LIXIL)

*2

「New York City adopts gender-neutral bathrooms」CBS NEWS 2016年6月28日

*3

「男女共用お手洗い All gender toiletについて」エコモ財団

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執筆者

Deeper ライターズ

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