脳神経の多様性とは?ニューロダイバージェントの強みを企業成長に活かす
脳神経の多様性とは?ニューロダイバージェントの強みを企業成長に活かす

脳神経の多様性とは?ニューロダイバージェントの強みを企業成長に活かす

ライター
公開日
Dec 6, 2021

まだまだ日本では、ASD・ADHDなどの“発達障害”を持つ人々は、日常生活や雇用の場で一般的にマイナスなイメージで捉えられることが多いのが現状です。

しかし、ここ最近のビジネスの世界では、ニューロダイバーシティー(=脳神経の多様性)という考え方が広がり、発達障害を持つニューロダイバージェントの強みに着目し、その特性を戦略的に企業成長に活かす動きがアメリカのIT企業を中心に広がっています。

日本ではまだこの考え方はあまり浸透していませんが、少しずつではありますが、こうした価値観が広まっています。脳神経の違いを理解し、より生産性の高い企業経営のために、ニューロダイバーシティーの概念を人材活用に取り入れてみてはいかがでしょうか。

脳神経の多様性とは

イーロン・マスクが自閉症スペクトラムの一種であるアスペルガー症候群を公表したことで一時話題となった発達障害ですが、日本においては、そうした発達障害と呼ばれる人々の強みがビジネスの世界に浸透していないのが現状です。

現在、多くの企業で人種、性別、性的指向、宗教などの違いを尊重するダイバーシティ&インクルージョンが注目されていますが、発達障害は、この文脈で見落とされがちです。

発達障害とは、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、ディスレクシア(LD)、チック症、吃音などを指します。

現状の一般社会の中では、生活に困難を覚えることも多く、生きずらさを抱え、支援を受けながら生活している人々も大勢います。

しかし、こうした特性は、脳神経の働き方の違いであり、発達障害を持たない定型発達の人々と比較して能力が劣るわけではないので、適切な環境に身を置くことができれば、本来持っている能力を発揮することができるのです。

最近では、こうした脳神経学的な違いを持つ人たちのことを“ニューロダイバージェント”と呼び、脳神経の多様性を尊重していこうという“ニューロダイバーシティ”の考え方が広がってきています。

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ニューロダイバージェントの取り巻く雇用市場での環境

世界最大級のメガバンクであるHSBCのCISO(アジア太平洋地域の最高情報セキュリティ責任者)であるジョナサン・スコット・リーさんは、自身がADHDであることを公表しており、以下のように語っています。

“ADHDであるがゆえに、数多くのアイデアを思いつき、それらを迅速かつ同時進行でこなし、また、細部にまで気を配ることができるので、複雑な問題にも集中力を切らさずに長時間取り組むことができる。この集中力の高さは、サイバーセキュリティ事件のようなストレスの多い状況では非常に役に立つ。

しかし一方で、こうした特性を持つニューロダイバージェントは、強みを持つ反面、従来の標準的な採用選考に合格できないケースが多い“

彼の言うように、ニューロダイバージェントは、従来型の面接や選考テストで良い結果を出せず、採用に至らないケースが多くあります。例えば、ASDを持つ人は、面接官と目を合わせることやコミュニケーションが苦手で、ADHDを持つ人は落ち着いた態度をとることができずにそわそわすることもあります。これらは従来の選考基準からするとネガティブな印象を与えてしまうことが多く、それによって本来の実力を発揮できず面接を通過することができないため、最終的には高給の仕事に就くチャンスを失ってしまうこともあるのです。

ニューロダイバージェントの強み

ニューロダイバージェントはこのように一般的にネガティブな印象を持たれてしまいがちですが、それぞれの特性を活かすことができる環境を見つけることで、弱みを強みに転換することができます。

ASD(自閉スペクトラム症)の場合

Harvard Business Reviewによると、ASDの人は、こだわりが強く、職場での社交能力が低い傾向がある一方で、安定した高い集中力と継続性、論理的思考能力、正確性、細部へのこだわりが求められる業務に適正があります。こうした特性は、ITエンジニアに適性があり成功する可能性が高いです。

LD(学習障害)の場合

米ミシガン大学によると、LDの人は、読み書きや計算は苦手な傾向がありますが、既成概念にとらわれない思考をする人が多いです。また情報を視覚的に処理し、隠れたつながりを見つけるのが得意で、データのパターンや傾向を発見するのに適しています。

空間認識能力も高い為、エンジニア、工業デザイン、グラフィックデザイン、建築などの分野で成功する人も多いです。

ADHD(注意欠如・多動症)の場合

オランダの出版社が発行する学術雑誌Personality and Individual Differencesに掲載された研究によると、ADHDの人は、物事に飽きやすい、衝動的、注意欠陥等がある一方で、創造性が豊かなため、様々なアイデアを企画することができます。また、行動力があり、プレッシャーにも強く、変化への対応力に優れています。こうした特性から起業家として成功する人も多くいます。

企業がニューロダイバージェント人材から得ること

JP Morgan(JPモルガン)では、2015年に自閉症を持つ人向けの採用プログラムである「Autism(自閉症)at Work」を立ち上げ、これまで多くの社員を採用しています。

このプログラムによって採用された社員は、現在、エンジニアや品質保証、コンプライアンスなど様々な職についており、視覚優位、細部への注意力、優れた集中力を活かすことで、同業他社と比較して、48%早く仕事を完了し、92%も生産性が高いという結果が出ています。

エンジニアとして採用された自閉症を持つMoffaさんは、“自分自身の特性を職務に活かすことができ、また会社が包括的に理解してくれるおかげで、自閉症であることを隠す必要がなくなり、自尊心が高まった”と語っています。

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引用・参考:JPMorgan Chase & Co logo: Neurodiverse Hiring Brings Social and Business Benefits (jpmorganchase.com)

ニューロダイバージェント人材は、従来型の枠組みから外れやすく、Moffaさんのように自己肯定感が低い傾向にありますが、生まれ持った特性をそのまま受け入れられる環境があれば、仕事への意欲も高まり、これまでとは異なった方法で、企業の生産性に寄与することができるのです。

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ニューロダイバージェントの強みに注目している企業の取り組み

以下の企業は、ニューロダイバージェントの強みに着目し、専用の採用選考プログラムの導入や継続的なサポートを行っています。

1. SAP

ドイツのIT・ソフトウェア企業であるSAPは、ニューロダイバージェント採用の取り組みで特に有名です。2013年にスタートした「Autism at Work」プログラムで、ニューロダイバージェントの人材を採用するだけでなく、彼らにとって居心地の良い職場環境をつくるために社内ルールを調整するなどの取り組みをしています。これにより自閉症スペクトラムを持つ社員の定着率は90%に達しています。

2. Microsoft

マイクロソフトも、社内の多様性を高める為のニューロダイバーシティー採用プログラムがあります。従来の採用面接の方法とは違い、数日にわたって、スキルやチームビルディングなどの能力を非公式、公式な場で評価するプロセスによって彼らの特性を踏まえた採用を行っています。

3. EY(アーネスト・アンド・ヤング)

会計・コンサルティング会社BIG4の一つであるEYは、2016年にニューロダイバーシティ採用プログラムを立ち上げました。このプログラムでは、求職者に応じたカスタマイズの採用方法を導入し、採用後には、トレーニングを受けた社員が新入社員を継続的にサポートすることなども含まれています。

ニューロダイバージェントのマネジメント方法

ニューロダイバージェントを対象としたマネジメントを行うには、以下に挙げる項目を意識すると良いでしょう。

1.それぞれ違う脳神経の個性があることを認識する

脳神経の働き方はそれぞれ異なるため、その特性の現れ方は一人一人異なります。これらの違いを認識し、すべてのニューロダイバージェントが同じ特徴やニーズを持っているわけではないことを理解することが、職場でのマネジメントの第一歩となります。そして、マネジメント手法や評価基準、職場環境なども、それぞれの社員によってニーズが異なるため、柔軟な対応が求められます。

2.ニューロダイバーシティー研修を行う

管理職や社員向けの継続的な研修を行い、特性への理解を深め、尊重できるようなマインドを培うようにしましょう。いくら社内制度を変えたところで、社員一人一人がお互いを尊重できるようなマインドがなければ、ニューロダイバーシティを実現することはできません。また、EYのようにトレーニングを受けた社員が継続的にサポートできるような仕組みを作ることも良い方法でしょう。

3.同僚や上司間とのコミュニケーションが深まる工夫をする

個人差がありますが、脳の認知機能の違いから、定型発達の人と同じような思考・行動パターンでないために、上司や同僚との間で誤解を生んでしまうこともあります。

例えば、ASDを持つ人は、こだわりが強く、論理的思考力が高いことが多く、物事を突き詰めて考える傾向があるので、それが職務に活きる反面、これまで暗黙の了解として流されてきたような職場の不文律に対して、非合理性を追及するようなこともあります。

定型発達の人から見ると、頑固で柔軟性がないと煙たく思ってしまうかもしれませんが、これは脳機能の柔軟性の違いに起因するので、こういう場合は「ルールだから」と一方的に終わらせるのではなく、論理的にその必要性を説明する必要があります。

またこうした機会に、これまでの慣習を見つめ直すきっかけとすることも有意義でしょう。

ニューロダイバージェントと定型発達の社員間で、脳の働き方の違いをお互いに受け入れ、学び合いながら、コミュニケーションが円滑にされるような工夫をすると良いでしょう。

4.社内制度の変更

それぞれの特性に応じた社内の設備や備品、勤務時間、勤務形態などの配慮も必要になります。状況に応じて社内制度の変更が必要であれば適宜行うようにしましょう。例えば、集中力を高める為のノイズキャンセリングイヤホンを経費規定に加える、周囲の騒音がない仕事スペースを確保するなど、ニーズに応じてできることはたくさんあります。

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まとめ

一般的にマイナスなイメージで捉えられることが多い発達障害ですが、適した環境に身を置くことができれば、弱みが強みに転じ、企業の生産性に大幅に寄与することが証明されています。ニューロダイバージェントの生まれ持った脳神経の違いを尊重し、強みにフォーカスする工夫をすることで企業は大きく変わることができるのです。

より生産性の高い企業経営のために、こうした特性を戦略的に活かすニューロダイバーシティーの概念を人材活用に取り入れてみてはいかがでしょうか。

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執筆者

Deeper ライターズ

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