メンタル不調からの職場復帰のさせ方を、ほとんどの企業が間違えている
メンタル不調からの職場復帰のさせ方を、ほとんどの企業が間違えている

メンタル不調からの職場復帰のさせ方を、ほとんどの企業が間違えている

ライター
公開日
Nov 25, 2021

メンタルに不調をきたし、休職に至る人は少なくない。会社にいれば、本人や周囲が明かさないだけで「あの人もそうだったのか・・・」となることはよくある。

メンタル不調での休職から職場復帰するには、「じゅうぶんな準備期間」を設けるというのが企業として一般的な対処である。

しかし、まず前提が間違っている。ひとえに無理解が原因である。

そう言われても担当者は困るだろう。

ここで、どの点に理解が足りないのか詳細に説明したい。というより、訴えたいと思う。

精神障害者の職場定着の難しさ

もともと精神障害者は、職場への定着率が低いことを理由に就職が難しいという傾向がある。

下のグラフを見て欲しい(図1、2)。いずれも障害者職業総合センターの報告書「障害者の就業状況等に関する調査研究」からの抜粋である。

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図1 求人種類別にみた身体障害者の職場定着率

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図2 求人種類別にみた精神障害者の職場定着率

2つのポイントがある。

まず、就職に当たって障害を開示・非開示のどちらかにしたかという人数の比率が、身体障害者と精神障害者ではほぼ逆転状態にあるということだ。

そして、精神障害者のほうが全体的に定着率は低い。特に、障害を非開示にしたまま就職した人の場合、1年後の定着率は3割を切っている。

精神障害者は採用されにくい、と障害者本人も時には過度に認識している。そのため、見えない障害であることを逆手にとって非開示のまま就職活動をする人は多い。

しかし抱え込んでひとりで苦しみ続け、結果、限界を迎えて退職してしまうのだ。

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「理解」と「無理解」のはざまで

いまは昔に比べて精神障害に対する理解も進んでいる。しかし一方では「それ系の病気」という、オブラートに包んだような言葉で括られてしまうくらいには、まだ無理解が大きく残っている。

さて、なぜここまで様々なことを筆者が言い切るのか。

理由は至って簡単だ。筆者自身も経験者だからである。

以前、メンタルの不調で長期休職をしたことがある。

休職中は「とにかくのんびりすること」であり、主治医の勧めとしては「自分の好きなことをじゅうぶんに楽しめてようやく復帰準備を始めましょう」ということである。

大分好きに過ごした。そして、いざ戻りましょうという段になって、様々な「それは無理」に直面したのである。

休職中、直の知り合い、あるいはSNSを通じて精神疾患・障害に悩む多くの人とコミュニケーションを取ってきた。その経験から、一般的な復職プログラムの何が根底から間違っているのか指摘したい。

まず、復職段階で患者は、理解と無理解の狭間に置かれる。周囲からオブラートに包んだ接し方をされ、本人もまた自分をオブラートに包んでいくのである。よって多くの会社員がこの問題を指摘できずにいたと思う。

一般的な復職プログラムはラスボスから始まるようなもの

ここで一般的な復職プログラムを紹介しよう。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」によると、以下の「試し出勤」で職場に慣れていくとしている*1。

(1)模擬出勤

勤務時間と同様の時間帯にデイケアなどで模擬的な軽作業を行ったり、図書館などで時間を過ごす。

(2)通勤訓練

自宅から勤務職場の近くまで通勤経路で移動し、職場付近で一定時間過ごした後に帰宅する。

(3)試し出勤

職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定時間継続して出勤する。

RPGのように、これらのクエストを順にクリアした後は、午前中のみといった時短勤務から始めフルタイムまで延ばしていく。模擬出勤から3か月程度でフルタイムに戻るとするのがひとつの目安になっている。

体力的負荷をゆるやかに増やしていくと考えれば、このプログラムは合理的なように見えるだろう。

しかし現実は大きく違う。これは、いきなりラスボスが登場してくるようなゲームなのだ。

結論から言えば、「勤務自体と同様の時間に」がすでに絶望的な人は少なくない。

というのは、精神疾患や障害を持つ人は、ほぼ確実に自律神経が壊滅的な状態にある。

天候の変化に弱い。気圧差に弱い。気温差に弱い。

一方で自然はいつも同じではいてくれない。つまり、日によって身体の状態がめまぐるしく変わるのだ。

その身体で「毎日同じ時間に起きる」というのはかなりの苦行、人によっては無理ゲーなのである。

「生活リズムを整えることが重要」とよく言うが、1時間単位でぴったり同じ行動を毎日することはできない。せめて昼夜逆転しないよう、夜に睡眠をしっかり取るよう、毎日守れるのはその程度のものでしかない。

そして、いつもより起き上がれる時間が1~2時間過ぎただけで「もうだめだ」となってしまう。厳しい企業では、クエストは振り出しに戻る。すると今度は自信が失われる。諦めたくなっても不思議はない。

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解が特になされていない事情

また、毎朝決まった時間に出勤しろということの難しさはこんなところにもある。ほとんど知られていないと思う。

朝出かけることが難しくなる理由をいくつか挙げてみよう。

・前夜、あるいは数日間入浴できなかった=精神疾患・障害者には入浴が大きなハードルになっている人が多い。SNSでは入浴したことを「お風呂倒してきた」という人もけっこういる。さすがにその状態で出勤はしたくない。

・着るものがない=入浴困難に似た事情である。洗濯ができない。あるいは、朝、着るものについて考えられない。それで外出をしたくなくなる。

・タイミングを逸した気まずさ=遅刻しそうであれば連絡はしなければならない。しかも、その決断を毎日決まった時間にしなければならない。「もう1時間横になっていれば復活するかもしれないけど、行けるか行けないかいま決めなければ」となる。1時間後に決断していれば出かけられたかもしれないのにそれを逸してしまう。

「お風呂に入ってないので今日は時間通りに動けません」。

そう言われて、なかなか理解はできないだろう。「じゃあ、遅刻してもいいからお風呂に入ってからおいでよ」と言ってしまうことだろう。しかしそれができないから困っているのである。

ある医師から聞いたところでは、フルタイムに戻るまでの3か月の間、1日たりとも欠けてはいけないという企業もあるという。クエストが2か月分進んでも、1日休めば振り出しに戻されるのだ。すべての装備をロストして、レベル1に戻る。そんな制度は絶壁でしかない。

疾患や障害を持つことに幸・不幸の比較はないが、強いて言うなら筆者が幸いだったのは正社員だったことである。

社会に出る前に精神疾患や障害を持ってしまった、あるいはそれで退職してしまった場合、就職・再就職のハードルが非常に高くなる。

いわゆる就労継続支援施設に通うところから始まるが、何度かの休みを繰り返してしまったことでそこから卒業できない人も多い。場合によっては、時給数百円の収入と生活保護で暮らしているという人は筆者の周りにもよくいる。

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何事も定時でないといけないのか?

精神障害者が仕事を続けていくにあたっての最大のハードルになっているのが「定時」である、と言っても過言ではないと筆者は思う。

「来られるときに」「連絡はしなくても良い」という前提になるだけで多くの精神疾患・障害者は救われる。

そこからフルタイムに繋げていくほうが、実ははるかにスムーズなのである。

しかし、そもそも「定時好き」の文化じたいを見直すときに来ているのではないだろうか。フレックス制度を設ける企業は増えている。リモートで良ければ頑張って午前の会議には参加できるのに、という人は多い。

先日、関東で最大震度5強という地震があった翌朝、交通ダイヤの乱れのために都内の駅構内で人が溢れ、電車が運転見合わせになるという出来事があった。緊急事態宣言解除の直後のことである。解除された!全員出社!である。

また、大型台風のたびに同様のことが起きる。

もちろん、全ての職種でリモートワークが可能な訳ではない。

しかしさすがに、障害者でなくても、いい加減「きつい」「無理」「意味わかんない」とは思わないだろうか。

また、障害の有無に関係なく、人には様々な事情がある。

「毎日短時間だったら働けるのに」という事情の人は多い。その労働力・能力を総計するとかなりの損失になっているのではないか、と筆者はしばしば思う。

世の中はバイナリではない。ましてや、労働力を「0か1か」のみで計算するのは愚かでもあると言える。

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*1「改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」厚生労働省

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