そのタトゥーデザインこそが、生きている証
そのタトゥーデザインこそが、生きている証

そのタトゥーデザインこそが、生きている証

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公開日
Nov 19, 2021
現在日本ではタブーであるタトゥーの歴史的背景や、スカー・カバー・タトゥーを取り上げることで、アンコンシャスバイアスやダイバーシティ・インクルージョンについての理解を深めるきっかけとなると考え、賛否両論を承知の上で公開します。(Deeper編集部)

前置きしておくが、これはタトゥーを推奨する目的で書いたものではない。現在の日本において、社会的・文化的な観点からも禁忌とされるタトゥー。そんな「嫌われ者」にもかかわらず、「タトゥーで救われた人生がある」という事実を伝えるものだ。

彫師のスズ

久しぶりに会う友人の名前はスズ。職業は彫師。尻が隠れるほどまで伸びた黒髪に、アジア人特有の質素な顔立ちをした彼女は、とてもじゃないが彫師には見えない。強いてあげるなら古書店や生花店の店員といったところ。

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人懐っこい笑顔のスズ

彫師歴13年のスズは、数千人の身体へ様々なタトゥーを施してきた。無論、「反社」と呼ばれる人への施術歴はなく、そのような方面からの接触も一切ない。

「ファッションやカルチャーって、30年経つとずいぶん変わる。タトゥー入ってたらソッチ系の人って考えは、今のあたしたち世代にはないよね」

たしかにその通りだ。任侠映画が流行したのは1960年から70年代まで。その頃、ヤクザ映画を目にする機会が多かった年代の人にとっては、タトゥー=ヤクザというイメージは未だに根深い。

また、生活環境も少なからず影響していたように思う。今でこそ一家に一つは風呂やシャワールームが設置されているが、その当時、自宅に風呂のない人は公衆浴場で身体の清潔を保っていた。そして銭湯には背中や胸に大きなタトゥーの入った利用客もおり、それを見るのはある種「当たり前」だったのだ。

その後、昭和の終わりから平成にかけて生活様式は大きな変貌を遂げ、他人の裸を見る機会は大幅に消えた。さらに銭湯やプールでは、企業独自のルールで「タトゥーお断り」の看板が貼りだされるようになる。まるで「ヤクザ=タトゥー」という、かつての任侠映画に習ったかのような徹底ぶりだ。

そしてその裏には、経営者がちょうど任侠映画世代であることも無縁とは思えない。

「タトゥーを入れにくる人って、口にはしないけど強い意志や覚悟を持ってここへ来てると思うよ」

たとえキャッチ―な花柄やアニメのキャラクターであっても、その図柄を決めるまでに費やした時間や心境の変化は、本人以外に知る由もない。さらには文身(身体に彫りものを施すこと)を選ばずに、タトゥーシールやヘナタトゥーで楽しむこともできるのに、あえてタトゥーを選んだということはそれなりの強い覚悟の裏付けとなる。

しかしスズは、依頼されてもタトゥーを彫らずに帰らせる場合もあるのだそう。

「話してる途中でコロコロ考えが変わったり、なんとなく入れたいっていう人には帰ってもらう。そこはもっと自分で責任をも持つべきところだと思うから」

穏やかな表情でスズは言う。彫師は技術と経験、感性を提供する職人。客の想いとともに二人三脚でタトゥーを完成させるからこそ、職人としての仕事がまっとうできるのだ。

「でもね、タトゥーを入れるのはキレイな肌ばかりじゃないんだよ」

どういう意味だろうか。そこには、深い苦しみと叫びが詰まる「切ない過去」があった。

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スズとアトリエ

タトゥーの歴史的背景

話の続きを聞く前に、タトゥーの歴史的背景をさらっておこう。

ある日、書店を物色していると一冊の本が目に留まった。身体改造ジャーナリスト・ケロッピー前田氏の著書「縄文時代にタトゥーはあったのか」という、センセーショナルなタイトルの本だ。

まさか縄文時代にタトゥー文化などはるはずがない、と言いたいところだが、30年前にアルプスで発見された男性のミイラにはタトゥーの跡があり、彼が生きていたであろう5300年前は日本でいうところの縄文時代中期にあたる。

前田氏によると、

「実際、日本は火山が多く酸性土壌のため、人骨以外は残りにくい。そのため、縄文時代にタトゥーがあったのかについての直接的な物証はなく、そのことを実証することは不可能と思われた。」*1:p.35

とのこと。ところがこれを補うであろう記録が存在した。中国の歴史書『三国志』の一部である『魏志倭人伝』に、次のような記述がある。

男子無大小皆黥面文身(中略)今倭水人好沈没捕魚蛤文身亦以厭大魚水禽後稍以為飾(中略)

「黥面文身」とは顔や身体にタトゥーがあることを指す。よって、

男子は身分の上下に関係なくタトゥーを入れていた。(中略)日本におけるタトゥーは、海に潜った時に大魚や水鳥の危険を避けるために入れていたが、今となっては飾りである。(中略)

と訳される。

魏志倭人伝は三世紀前半頃、いわゆる弥生時代の日本の地理や風習が記されている。その頃、すでに記録に残るほどの「黥面文身」という習俗が存在していたということは、タトゥーの発祥が縄文晩期に遡ってもおかしくはない、と前田氏は考えるのだ。

古代のタトゥーは身体装飾の面だけでなく、集団の帰属や一人前の大人と認められるための通過儀礼といった意味合いを持っていた。ところが7世紀後半にタトゥーは姿を消し、その後は髪形や着物によって「美」を表現する傾向が強まったようだ。

時代は江戸まで飛ぶ。当時人気であった浮世絵や歌舞伎の登場人物がタトゥーを入れていたこともあり、町人・職人を中心にタトゥーは憧れの存在となる。江戸中期には火消人足(鳶)が勇み肌を競いタトゥーをほどこし、駕籠(かご)や飛脚などもそれに続いた*2:p.37-39。

タトゥーが流行する一方で、1720年には幕府が刑罰の付加刑として「黥刑(げいけい)」を採用した。黥刑とは入れ墨のことで、顔や腕といった目立つ部位へ線や柄を入れ、再犯者の早期発見や人々への警戒意識を高める目的があったとされる*2:p.39-41。

明治時代に入り、タトゥーに関する取り締まりは厳しくなる。1872年に東京で「違式詿違条例」が施行され、彫師をすることと彫師の客となることの両方が禁じられた。昭和時代に制定された日本国憲法では、タトゥーに関する規制が撤廃される代わりに、各都道府県ごとに設けられる「青少年健全育成条例」へと引き継がれることとなった*2:p.49。

海外におけるタトゥー文化と日本におけるそれとでは、異なる部分も多い。しかし、日本におけるタトゥーの歴史を振り返るだけでもこれだけの変遷があり、生活様式の変化とともにタトゥーの位置づけも変わっていったのだ。

スカー・カバー・タトゥーの存在

スズの話に戻ろう。タトゥーを入れるのはキレイな肌ばかりじゃない――という言葉の意味は深かった。日本ではあまり知られた方法ではないが「スカー・カバー・タトゥー(Scar-Covering Tattoos)」をご存じだろうか。スカー(Scar)は火傷や切り傷の瘢痕、それをカバーアップ=隠すためのタトゥーのことだ。

だが彼女の元を訪れる客のほとんどは、手術やケロイドの痕を隠す目的ではない。リストカットの痕へタトゥーを施すために訪れる。

「やっちゃった後すぐには彫れないから、一年、二年くらいしてからかな。それからようやくタトゥーを入れられる感じ」

リストカット痕の多くは一カ所ではなく複数におよぶ。そして何十カ所もの鋭い切り傷は、望まなくとも他人の視線を誘う。そのため半袖の季節にも腕は出せず、ふとしたきっかけで傷跡を見た者は、瞬時に顔を曇らせ目を逸らす。リストカットの経験がない人にとって、その傷跡は「弱さ」の象徴として写るのだ。

「僕は弱くないし過去を恥じていない。そのすべてが今の僕を作り上げているから」

そう語るのは、若きアーティスト・清水文太*3だ。彼の右腕には何本ものカラフルなラインが散りばめられている。まるでクレヨンで描いた「おえかき」のように――。

一見、ファッションの一部として施した装飾に見えるが、腕に近づくと、クレヨンと重なるように何本もの半透明な傷がある。それは、彼が小中学生の頃に繰り返したリストカットの痕だった。

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ポップでカラフルなタトゥーが映える文太の右腕

「これまでは、腕が写る撮影では傷跡を隠したり、画像編集で消したりしてきた。でも、なんで悪い傷じゃないのに隠してるんだろう?って思うようになり、だったら隠すんじゃなくて見せていこう、と決めたんです」

本人にとっては、過去の自分を乗り越えた証でもあるリストカットの痕。だが他人からすると、その傷は痛々しく艶めかしい、触れてはならない「闇」ともとれる。この無駄で不毛な距離を縮めるためにも、文太はあえて「見せる」ことを選んだ。加えて「色」に造詣の深い文太は、大人も子どもも親しみのある、クレヨンのような柔らかいタッチとパステルカラーで飾ったのだ。

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お茶目な文太

人には誰しも忘れたい過去がある。その消せない過去を否定するのではなく、受け入れた上で今を生きている。人生の節目として、リストカット痕にタトゥーを絡めることで新たな未来を切りひらいた若者を、誰が否定できよう。

タトゥーの歴史は深い。そしてそこに込められた想いや決意は、他人が否定できるものではないはずだから。

*1(引用・参考)ケロッピー前田(2020)『縄文時代にタトゥーはあったのか』国書刊行会

*2(参考)山本芳美(2016)『イレズミと日本人』平凡社新書

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Deeper ライターズ

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