予約が店を苦しめる
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予約が店を苦しめる

ライター
公開日
Oct 15, 2021

お店はずっと開いていない

以前も書きましたが、仮面おもてでは営業時間中はほぼずっと散歩しているので、私を探してもらわないと入店できないシステムになっています。最近はそうした事情を知ってか知らずか、お問い合わせの電話が非常に増えました。ほとんどの問い合わせは「今日は営業していますか?」というものですが、まれに「何時に行きますので、よろしくお願いします。」といった有無を言わさないものもあります。こうした問い合わせに対して、私自身は「完全にお客さんに不義理をする」という暴挙でもって対応しているわけですが、確かに行きたい時間にお店が空いていないというのは不便と言えば不便です(何が確かにだ)。

しかしながら、常に開いているお店や、「予約したら確実に入れる」という状況は便利である一方、実は非常に不健全な状態なんじゃないでしょうか。実際、どんなお店でも予約を受けた段階でその時間にテーブルや空間を空けておかなければならないし、飲食店などに至っては確実に来る保証もないのに料理を準備して待っていなければならないという大変なプレッシャーを引き受けることになります。ちょっと前にクーポンなんかの流行によって予約だけして来店しないお客さんが一時社会問題化したりもしましたね。こうした状況を踏まえると、予約という行為はお客さん側にとっての便利さをお店側が割を食って迎えているという見方もできるのではないでしょうか。うちは極端な例ですが、予約によって生じるプレッシャーが一部のお店の大きな負担となっているのは間違いないようです。

もちろん予約によって生じるメリットも大きなものがあります。一日のうち何人の見込み来客がありどの程度のリソースをさけば良いのか、事前に把握できるのは店舗運営にとって非常に重大な点です。また個人でやっているマッサージ店などのように、同時に複数のお客さんを入店させることにそれほど意味がない業態の場合、ほぼ全てのお客さんを予約で賄い、入店する人員を整理できることは大変なメリットです。

予約をいたずらに否定したいわけではありません。当然、どちらにも相応の良い点と悪い点があります。

予約はサービス

墨田区のとある喫茶店は今年から「予約のお客さんに対して一律で200円を申し受ける」という制度を導入しました。この喫茶店は超人気店で朝から夕方までお客さんが途切れないにもかかわらず、店長の驚異的な采配によって誰もがゆったりと時間を過ごせるというまれに見る優良店です。ただそんな人気店であるがゆえに、事前に電話して予約を取りたいというお客さんがたえません。このお店は電話での予約を受け付けているものの、予約をいただいてからお客さんが来るまでの間テーブルを空けておかねばならず他のお客さんをそこに通せないというロスタイムが発生していました。

これは裏を返すと、これまで営業してきた中でこのロスタイムに係る諸々の費用をお店側が負担していたのだともいえます。一見するとほんの短時間のロスにも見えますが、そもそも目の前の業務で忙しい最中に予約の電話を受け、ある時間帯に席を確保し、お客さんが来店されたらすぐにサービスを提供できるように準備をするといったことは飲食店にとってかなり労力を使う仕事です。しかも、その時間帯に来た別のお客さんをお通しできないのは大きな機会損失です。

そもそも、なぜ事前に電話をかけたお客さんが優先されるのでしょうか。予約のお客さんは電話をかけるのが早かったわけですが、別のお客さんはその人よりお店に行くのが早かったわけです。どちらを優先させるかはお店の判断に委ねられるのがまっとうです。極端に言えば、これまではなぜか予約をしたお客さんのみが優遇され、予約をしなかったお客さんは冷遇されてきたといった見方もできるのではないでしょうか。

こうした状況に対し、「予約を受ける」というサービスにかかる費用をまともにお客さんに請求するというこのお店の態度は非常に誠実なものだと私は思います。

お客さんは対等

うちは予約制ではありませんし、電話をかけていただいても私自身がお店にいるかどうか判りませんとお伝えしていいるので好き勝手やらせていただいて大変ありがたい心持ちなのですが、やはり戸惑われる方も中にはいます。昨今はお客さんに対するサービスが過剰で、知らないうちに、当然のように「お客様」扱いされることに慣れてしまいがちです。

しかしながら、そうした振る舞いがサービスをする側に負担をかけていることも往々にしてありますし、そもそもお店というものはお客さんにサービスを提供することが至上の命題なのでしょうか? うちは来たお客さんに対して何らかのサービスを提供したり何らかのメリットを享受させるようなこともあるかもしれませんが、大前提として「サービスをしよう」という気持ちで営業していたことは1度もありません(それもどうなのか)。それが当然かはわかりませんが、お店とお客さんの関係はフラットなもので、あくまで対等な契約関係にあるという考え方で私は業務を行なっています。

お客さんを「お客様」と呼ばないとか、入ってきたときに「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」と声をかけるとか、どこかの自己啓発本にありそうな個人のしょうもないこだわりを私もいっぱい持っています。そんなことは個別にはどうでもいいことですが、対等な個人として上げすぎず下げすぎず、その都度しっかり向き合いながらなんとなくお付き合いをするやり方をいつも模索しています。

お客さんは友達

私は別に、仕事の中に機械的で冷たい契約関係のみを持ち込むということを推奨したいわけではありません。むしろ、仕事場に友達がいたりとか、赤ん坊がいるとか、来たお客さんと仕事以外の話をするといったようなことの方が小さなお店のあり方としてはまっとうなんじゃないだろうかと思っています。うちに来るお客さんの半分は仮面を切実に求めているあるいは必要な人たちですが、もう半分は仮面に全く興味のないしかし仮面屋に来る外がなかったというねじれた状況にある人たちです。そうした人たちに対して「うちに来るなら仮面を買ってください」とは絶対に言いたくないし、私はむしろ仮面を売らないことこそ仮面屋が世の中に存在することの大きな意義だと考えています。

うちには毎日撮っているスカイツリーの写真を見せに毎週仮面屋を訪れるおじさんがいるし、将来に悩んで進路相談に来る高校生がいます。また、アートプロジェクトの資金繰りのアドバイスを受けに来るマネージャーや、外回りついでにだべりにくる近隣勤務の女性、新規事業開発のアイディアを求める事業担当者や子育てに悩む家族など、ここに上げるにはきりがないほど様々な人が仮面屋に足を運ぶのです。彼らは、予約制でそういうサービスを提供しているからうちを訪れるわけではなく、ただなんとなくこの時間にあいている謎のお店に遊びに来ることで、自分自身の居場所を確かめ、またそれらの悩みが解決することを望みつつもここに答えがあるとは到底思っていないのですがそれでもここに来なければいけない事情を抱えているのでしょう(悪文)。

ただもちろん、私は別にそうした人たちの心のよりどころになりたいわけではないし、どう考えてもうちは単なる仮面屋です。しかしながら、そうした人々が訪ねてくれるということにとても大きな価値があるのだと信じてやっているのも事実です。お店の本当の価値というものは提供しているサービス(らしきもの)の内容によるわけではなく、もっと別の形でお店のどこかに紛れているものなのかもしれません。

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