オンラインコミュニケーションに足りないのは何か
オンラインコミュニケーションに足りないのは何か

オンラインコミュニケーションに足りないのは何か

新型コロナウィルスの影響を受け、これまで当然のように行われていたオフラインの活動の多くが、オンラインで行われるようになった。

テレワーク・リモートワークが一時期は当たり前になり、飲み会もほとんどがオンラインで実施され、多くの学校でオンライン授業が展開された。当然だが、集合研修の多くもオンラインで実施されることが多く、映像教材のニーズも強まっている。

私自身2020年4月から社会人大学院生として、働きながら大学院に通っているが、1年が経過した今でも仕事も大学院もどちらもリモートが基本となっている。学部とは違う大学院に通っているので、入学してから通学したことは片手で数えられるほどだし、指導教員とは一度も直接会ったことがない。

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こうした社会の変化の中で、いろいろな立場から考察が行われている。 リモートワークが当たり前になった結果、出勤がなくなりストレスが減ったという意見、 家庭で仕事をするのでプライベートとワークの区別がつかなくなるという意見、 新入社員や新入生のようなニューカマーは辛いという意見。

いろいろな方向から議論がなされている中で、「オンラインでのコミュニケーションは足りない」という意見を多く耳にするようになった。

例えばZoomでビデオ会議をしていると、これまでの会議のように議論が活発にならないだとか、TeamsやSlackでの連絡は業務指示がうまく通らないとか、相手の様子が見えないのでマネジメントがうまくできないとか。

正直に言ってその多くは、「これまでもできていなかったことが顕在化した」というケースがほとんどだとは思うものの、直感としてオフライン、つまり現実のコミュニケーションに対して、「オンラインコミュニケーション」は何かが足りない、ということについては、そこまで異論はないように思う。

オンラインコミュニケーションに足りないのは「非言語的手がかり」?

では何が足りないのだろうか、と考えたときによく出てくるキーワードが「非言語的手がかり」である。

非言語的手がかりとは、発言内容以外のもの、例えば表情や声音、ジェスチャーなどを指す。オンラインでのコミュニケーションに、これらが「欠けている」と表現すると語弊があるが、今回の大規模な生活のオンライン化で人々が感じたのはオンラインでのコミュニケーションはこれらが「足りない」、すなわち「少ない」という感覚だったのではないだろうか。

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しかしここには、オンラインでのコミュニケーションは対面のコミュニケーションと比較して、非言語の手がかりの欠けた「劣ったもの」だ、という認識が隠れて見える。

さてこう聞くと、次の疑問として、非言語的手がかりは私たちの生活にそんなに重要なのか、という問いが出てくる。非言語的手がかりは、私たちのコミュニケーションでそんなに重要な役割を担っているのだろうか。

対面コミュニケーションは素晴らしいのだという「幻想」

杉谷(2010)では、近年のコミュニケーション研究において非言語的手がかりの影響力が過度に評価されていたことを先行研究を通して述べた上で、「非言語的手がかりが豊富に伝わる対面コミュニケーションが素晴らしいのだという『幻想』を抱いていた」と指摘している。

紹介されている事例では、メールで「ありがとう」と文字を送ったときに、その意図が「感謝」か「皮肉か」を正確に見抜くことができたという実験結果や、メッセージと不一致な非言語的手がかりを提示した場合に、非言語的手がかりはその意味の解釈に寄与していないことが示されている。

ではなぜ、私たちは非言語的手がかりの不足を「足りなさ」に感じるのだろうか。

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テキストチャットでは実際は「伝わっている」けれど、「伝わってない」感じがする

ここで杉谷(2010)で紹介されている、杉谷の博士論文の結果を合わせて紹介したい。

この研究では、テキストチャットにおける非言語コミュニケーションがどのくらい重要なのかを明らかにするために、コミュニケーションの質を「情報伝達度」と「情報伝達感」の2つに分けて調査を行った。

「情報伝達度」は、実際にどの程度正確に情報が伝わったのかを示していて、「情報伝達感」は、どの程度正確に伝わったと思うかを示している。前者が客観的な指標なのに対して、後者は主観的な指標であることが特徴だ。

実験では、まず対面コミュニケーションを行う群と、テキストチャットを行う群に分けて、同様の課題に取り組んでもらった。実際に課題に取り組んだ後、調査紙を利用して情報伝達度と情報伝達感をそれぞれ回答してもらう。

この結果を見ると、対面コミュニケーションに対してテキストチャットでは「情報伝達度」が高く、「情報伝達感」が低い、という結果になった。言い換えれば、主観的には「伝わってない」ように思えるが、実際は「伝わっていた」ということであった。

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『インターネット・コミュニケーションと対面コミュニケーションにおける情報の伝わり方の差異についての意見書』杉谷(2010)より、抜粋

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この結果に対して、さらに調査を深めるため、ビデオ会議を用いた群と、テキストチャットを用いた群でも同様の調査を行った。この結果もなんと、テキストチャット群のほうが「情報伝達度」が高く、「情報伝達感」が低い、というものであった。

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『インターネット・コミュニケーションと対面コミュニケーションにおける情報の伝わり方の差異についての意見書』杉谷(2010)より、抜粋

これだけをとって、オンラインコミュニケーションのほうが情報が伝わりやすいのだ、というのはさすがに早計と言える。コミュニケーションは情報伝達だけが目的ではないし、仕事の現場での業務指示のような複雑な内容であればまた結果は異なるかもしれない。

しかしその一方で、「非言語コミュニケーション」がなくても、つまり文字だけのコミュニケーションでも情報は適切に伝えられるのだということ。そしてそれにも関わらず、私たちは、それがテキストによるものだというだけで、「伝わってない」と感じやすい、ということは重要なポイントだろう。

急速なオンライン化の果てに

私たちは今、新型コロナウィルスの対策という必要性にかられて急速に「オンライン化」していったわけだが、一方でこんなことがなくても普段のコミュニケーションの多くを「オンライン」でやっていたことも忘れてはならない。

2年前も友達とLINEをしていたし、Slackを使って仕事のコミュニケーションをとっていた。取引先とはメールや電話がほとんどだったし、TwitterやFacebookを使って、ネットワークを保っていた。

オフラインとオンラインのコミュニケーションには、それぞれにメリットとデメリットがあり、どちらを使うかによって私たちはコミュニケーション様式を変えている。急速なオンライン化を乗り越えつつある今、「昔はよかった」とノスタルジックに浸る前に、多様なコミュニケーション手段との新たな関係の構築が求められているのかもしれない。

参考文献

杉谷陽子(2010)インターネット・コミュニケーションと対面コミュニケーションにおける情報の伝わり方の差異についての意見書 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kaikaku/dai3/siryou3_2_2.pdf

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