営業時間を0にしたい。
仮面屋おもて流 持続可能な商売
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仮面屋おもて流 持続可能な商売

営業時間を0にしたい。 仮面屋おもて流 持続可能な商売

虚空を(ちゃんと)眺めたい

「仕事はてきとうにやったほうがいいぞ」みたいな話をしたいと思います。

私は東京で「仮面屋おもて」というお店をやっています。文字どおり仮面を売るお店です。特に主だって仮装用品というわけではなく、あちこちから引き取った骨董や、作家がつくった名も知れぬものなどを販売しています。

捩くれた立場のお店なのでわかりづらさがありますが、例えば映画や映像で使うマスクを製作したり、故人が収集していたいわくありげな面を回収したり、急に誘われた仮面舞踏会の衣装をご用意したりするなど、突発的に仮面に関わらざるを得なくなったひとに何かを提供するのが主な仕事です。また、現代における「仮面」や「マスク」の立場や在り方についての研究・資料収集なども行っています。

弊店の営業時間は「おおむね土日の12:00~19:00」で、私は営業時間のほとんどを近所を散歩して過ごします。あれ、急に何を言っているのかわからなくなりましたかね。コミュニケーションは伝わったものだけが真実。そういうことです。

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仮面屋は2014年にオンラインショップとしてスタートし、実店舗がオープンしたのは2016年です。当初は火・水・土・日で週4日の営業でした。いま思うとめちゃくちゃえらいなと思います。過去の自分はだいたいずっとえらい。すごい(もっと褒めてもいい)。

けれども、正直な話、平日はお客さんが少ないんです。墨田区の京島というマニアックな土地にあることもあるし、そもそも仮面を買うひとがめちゃくちゃいる世の中はやばいので(そんな世界はいやだ)、状況はどう考えても必然です。だから、私は「本当に週4日店をあけていたほうがいいのか?」ということに関してはずっと疑問を持っていました。

ただ、お店というのは営業してると必ず一日に2、3人くらいはお客さんが来てくれるんです。で、日に2、3人くらいのお客さんのために、ほぼ業務を終えてるのになんとなくお店の掃除をしたりして待ってるんですね。開けているとおそらく確実に来てくれるので、小さなお店の店主はなんだかんだ「開けてたら来てくれるしな......」と思って営業しちゃうんですよ。

でも、営業時間のほとんどを「虚空を眺めてお客さんを待ってる」みたいな状態って健全じゃないですよ。虚空を眺めるなら、虚空を眺めるぞという気分でしたほうがいいじゃないか。お店の営業と虚空を眺める時間のどっちが人生にとって大事かと聞かれたら、私は迷わず後者を選びます。だからきちんと虚空を眺める時間をつくるために、営業日数を減らすことにしました。

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いや正直、最初はけっこう悩みました。「お客さんが0になったらどうしよう。、?」とかね。まあでも、営業日数が減ったくらいでお客さんが0になる商売にもはや先はないので、結局はなるようになるしかないでしょう。そんなことより人間は自分自身の人生の幸福を優先させるべきです。仕事を言い訳にして人生の幸福をないがしろにしてはいけない。

実際のところ、段階的に減らしていってここのところは週2日しか営業していませんが、お客さんは安定しています。初見の方でも「ああ、土日営業の店なんだ」って、そんなもんです。おかげで道楽商売だと思われがちではありますが、そこは甘んじて誤解を受けましょう。

お客さんの人数は減っておらず、むしろ営業日に集中してきてくれるので対応が楽になりました。結局、本当にお店に来なければならないひとはいつが営業でも来るほかないし、絶対に店頭に来なければならない状況というのは案外少ないものです。

なんならもっと。

そのようにして営業日数を減らしました。そうなると次は営業時間ですね。12:00~19:00。

ただ、実はこれはオープン以来変わっていません。正直な話、もっと減らしてもよいなということはたびたび思ってきましたが、これ以上減らすと本当にお店にいくモチベーションがなくなりそうなので(ほんとぎりぎりで)踏みとどまっています。

そのかわりに、営業時間のあいだはずっと散歩をするという営業形態をとることによって心の平穏を保っています。はい、自分でも不穏なことを言っている自覚はあります。けれども、ほんとうに実践しています。それを説明する前に、お店のある京島という地域について少しお話します。

京島は戦後焼け残った木造長屋が立ち並ぶ、いわゆる東京の下町風景を色濃く残した地域です(悪く言えば防災特化区域で火事や災害での建物崩壊などの心配がめちゃくちゃあります)。近年は、そうした古い街並みを再評価する動きが高まってきていて、若い人が続々とまちに住み着き、ちょっとしたおしゃれタウン化している様子すらあります。私のお店はその地域の中心商店街の一角にあり、仮面屋などといって怪しげに浮いてるのかと思いきや(確かに浮いてはいるものの)それなりに町になじんでいるくらい懐が深い土地です。

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さて、そんな京島地区でお店をやっていては、どう考えても街が「お散歩しなさい」と訴えてきてますよね? 古い東京の街並みを残す生きた商店街があり、おしゃれなカフェやアートギャラリーまでが次々とできている。さらになんだかんだそれなりの年数お店を構えているので、友達が周りにいっぱいいるんです。そう、そんな場所にいて(営業中に)散歩をしない道理はまずないのです。※ほんとうに本音をいうと場所がどこであろうと散歩(歩行)はすばらしいのですが、その話はまた別の機会に。

営業中に散歩をする。これははっきりいってとてもいいことです。

まず、近隣のひとと仲良くなれます。もちろん、もともと店舗を構えて商売をしているので、それなりにまちの人たちとコミュニケーションをとることはできますが、散歩はまったくの別物です。なぜなら、散歩をすることによって私自身がお客さんになるからです。自分の商売をやっているだけでは、つねに「お店の人」状態なので、他の店舗で買い物をしたりすることが稀です。ほとんどの場合営業時間は被っているので、その間ずっと自店にいてはまったく交流が持てません。

その点、営業時間中に散歩をすれば無敵です。ずっと他店のお得意さん状態ですから。しかも、多くの人にとって買い物はレジャーですから、どう考えても最高に楽しいハッピー百点満点です。さらに営業日数が少ないので散財しすぎてしまう心配もありません。また、なんとしても歩くことは人類最古の文化ですから、これ以上に楽しいことがあるでしょうか? さあ、日々が散歩によっていろどりを増す様子がおわかりいただけたでしょうか。わからなくてもいい。私は楽しい。

まだまだいける。

では、具体的にどうやって営業中に散歩をしているのか?ホームページのご案内をご覧ください。

https://kamenyaomote.com/2020/09/13/entrance/

このURLをQRコード化して店頭に貼り付けています。これでお散歩の準備は万端です。お店に用事のあるお客さんはQRコードをスキャンし、近所にいる私を探しに来てくれます。もちろん、頑張っても見つからないこともあるし、その時点であきらめるひともいるでしょう。そのときは、一縷の望みをかけて電話していただくか、レベルを上げてからまた来店してくれるのに期待します。このシステムは個人的に発明ともいうべき親切心があふれ出した傑作だと思っていますが、同時に、このシステムがなくても一向にかまわないとも思っています。

結局、お客さんがお店側の仕組みに合わせてくれることでお店は成り立っているということです。考えてみれば、自分の店ですから自分でルールを設定するべきなんです。お店の独自ルールは、なにも頑固な店主のラーメン屋だけの専売特許ではありません。個人経営のお店は、もっとゆるやかに、しなやかに、てきとうにやったほうがいい。

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私たちはだれもが気づかないうちに、世間のルールにがんじがらめになっています。そうした気づかぬバイアスをひとつひとつ見えるようにしていくことで、もっと楽しく、てきとうに生きることができればこんなに素晴らしいことはないなと思います。弊店の目下の目標は営業時間0です。大変な業務も、ストレスも、営業時間もない。けれどもお店は(どうにか)やっている。そんな形の営業形態を、これからも模索していきます。

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