『ESG思考』から学ぶ、世界に押し寄せるESG潮流(前編)
『ESG思考』から学ぶ、世界に押し寄せるESG潮流(前編)

『ESG思考』から学ぶ、世界に押し寄せるESG潮流(前編)

今年に入って読んだ本の中で最も影響を受けた本の一つと言っても過言ではない、『ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった 』(講談社+α新書)。

この著者の夫馬 賢治氏は、サステナブルに関するニュースを取り上げるニュースサイト「Sustainable Japan」を運営し、サステナビリティ経営・ESG投資コンサルティングなどの活動の傍ら、環境省「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」選定委員に選ばれるなどしている。

ちなみに、本のタイトルにある「ESG」とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉で、ESG投資とは従来の企業の財務指標だけでなく、環境、社会、ガバナンスといった非財務情報を指標にし、持続可能なより良い経営をする企業に対しての投資のことを指す。

私自身は、SDGs、ESGおよび、パリ協定を意識し始めたのは2019年ごろ。

それらを理解する中で、サーキュラーエコノミーに関心を持ち、2020年2月にサーキュラーエコノミー先進国家であるオランダ・アムステルダムに渡り、サーキュラーエコノミー視察旅行をした。

その時の模様はこちらの記事にてレポートしている。

このように、SDGs・ESGの分野について多少の関心を持っていたわけだが、書籍『ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった 』(以下、『ESG思考』とする)を通じて、2015年に国連がSDGsを採択するずっと以前から世界では、気候変動リスクに対処すべく、国連などの国際機関やNGOに加え、世界の金融機関や企業が持続可能な開発に向けての取り組みを進めていることを知った。

世界のESG潮流についての深い理解を与えてくれた本『ESG思考』および、その著者の夫馬 賢治氏に敬意を表しつつ、その本の内容を踏まえて、世界のESG潮流について、まとめてみたい。

「持続可能な開発」のはじまり

SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略であるが、このなかの「持続可能な開発」というキーワードの起源は、1992年の地球サミットにまで遡る。

1992年の国連環境計画(UNEP)による地球サミット(国連環境開発会議)において、環境分野での国際的な取組みに関する行動計画である「アジェンダ21」が採択された。この会議には、約180ヵ国及び、多数の国際機関、NGO代表などが参加し「持続可能な開発」という概念が強く提唱された。

同じ年に、UNEPとドイツ銀行、HSBCホールディングスなどの商業銀行が協力し、「金融団体による環境及び持続可能な開発に関するUNEP宣言(the UNEP Statement by Banks on the Environment and Sustainable Development)」を発表する。1995年には、スイス再保険会社や住友海上火災などの大手保険・再保険会社や年金基金と協力し、「保険業界による環境コミットメントに関するUNEP声明(the UNEP Statement of Environmental Commitment by the Insurance Industry)」を発表した。

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なぜ、銀行や保険などの金融業界が他の業界より先駆けてUNEPと協力し、このような声明を打ち出したのか?

それは気候変動リスクが金融業界に大きな影響を及ぼすからだ。

ではなぜ、気候変動リスクが金融業界に大きく影響するのか?

企業活動の血液と言われるのがお金である。企業は事業から得られるお金のほかに、銀行から融資などの形で資金調達を行う。銀行は貸し出したお金に利子をつけて回収する。

温暖化、超大型台風、洪水、干ばつ、大規模な山火事などの気候変動リスクが高まると、企業は事業存続が危ぶまれる。そうすると銀行は融資を回収できなくなる。もしくは融資をしたくても気候変動リスクが高いために融資できない可能性が出てくる。銀行としては、そのような気候変動リスクが高まる状況を何としてでも阻止したいわけだ。

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保険業界についても気候変動リスクがカギになる。保険の種類には、生命保険のほかに損害保険がある。

企業はメーカーであれば工場などに損害保険をかけるわけだが、気候変動リスクが高まり、超大型台風、洪水、干ばつ、大規模な山火事などにより、企業活動における損害が生じる確率が高まる。そうすると、保険会社がこれまで以上の補償を支払う必要が出てくる。さらには、気候変動リスクの上昇とともに保険料が高騰し、そもそも保険という仕組みが成り立たなくなる。そうすると世の中の企業活動自体に支障が出る。

気候変動リスクを抑え、そのような事態を防ぐためにも、金融業界はUNEPと協力し、環境問題への意識を活性化させる活動を始めた。

国連責任投資原則(PRI)により生み出された、ESG投資という概念

企業活動におけるリスクは気候変動リスクだけではない。

1997年にナイキが委託するインドネシアやベトナム工場での労働搾取が暴露され、世界的なナイキ製品の不買運動、訴訟問題まで発展し、経済的に大打撃を受けた。 社会課題を放置したまま事業を営むことは、環境問題と同程度にリスクなのだ。

そこで、1999年に世界経済フォーラム(ダボス会議)にて当時の国連事務総長コフィ・アナン氏が人権の保護、不当な労働の排除、環境への取り組み、腐敗防止の4つの分野10の原則・国連グローバル・コンパクトを提唱した。

この原則に賛同する企業は、国連グローバル・コンパクトに署名でき、国連機関やNGO、他の民間企業などと連携し持続可能な発展を目指すことができる。

(ここでいう「コンパクト」とは、取引・契約という意味である。)

国連はこれまで各国政府との連携が主であったが、国連が直接企業と接点を持ち始めたのがこの国連グローバル・コンパクトだと『ESG思考』では述べている。また、ESGに対する取り組みが「民間が先、政府が後」となるはじまりの年だとしている。

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さらに国連は、2006年に国連責任投資原則(PRI)を発足させ、ESG投資という概念を生み出す。

国連責任投資原則(PRI)とは、当時の国際連合事務総長であるコフィ・アナンが金融業界に対して提唱したもので、機関投資家は投資の意思決定プロセスにおいて、ESG問題を反映させるべきとした世界共通のガイドラインだ。

機関投資家等は、この原則に署名することで、長期的な投資成果を向上させることを最終目的とし、

  • ESGを投資意思決定に組み込むこと
  • 投資先企業のESG向上のために議決権行使を行うこと
  • ESGに関する情報開示を求めること
  • この原則に関する活動状況などを年次で報告すること

などにコミットすることになる。

これを発足させるにあたってはひとつの大きなハードルがあった。それは、「受託者責任(Fiduciary duty・フィデューシャリー・デューティー)」である。

これは、投資のためのお金を出す受益者(出資者)に対する、お金を運用する受託者(運用者)の責任・義務のこと。みなさんも個人で投資信託などにお金を預けて、資産運用されているのではないだろうか。その場合は、みなさんが受益者であり、証券会社などの運用会社は受託者である。受託者にはみなさんに対して最大限利益をもたらすための受託者責任がある。その義務の中には受益者の利益に反する取引を行わず、受益者の利益のためだけに職務を遂行する「忠実義務」などが含まれる。

国連責任投資原則(PRI)において課題になるのは、環境問題や社会課題に配慮すれば投資パフォーマンスが下がる可能性があるのではないか、ということだ。そうであれば受益者の利益に反し、受託者責任を果たせず、受託者責任違反ということになる。

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そこで国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)は、2004年に画期的なレポートを発表する。このレポートは、ESG問題が株価評価に対して与える潜在的なインパクトの確認と定量化を目的としたものである。

このレポートでは、結論としてESG問題が短期・長期に関わらず、プラスにもマイナスにも企業価値に影響を及ぼすとした。さらに、ESG問題を投資判断に取り入れることは、投資家、運用機関にとって不要な財務リスクを防ぐことにつながり、ひいては利益を拡大する可能性があるとしている。

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”環境、社会、コーポレート・ガバナンスの基準は短期的にも長期的にも株主価値に影響を与える。” 出所:『The Materiality of Social, Environmental and Corporate Governance Issues to Equity Pricing』 UNEP FI(2004)

よって、このレポートでは、投資の意志決定プロセスにおいて、ESG問題を考慮することは受託者責任において無用であるどころか、必要であることが証明され、国連責任投資原則(PRI)をもとにした、ESG投資が可能となったのだ。

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『ESG思考』では、これをきっかけに利益のみを追求する「オールド資本主義」から、環境問題、社会問題に取り組みながら持続可能な発展を目指す「ニュー資本主義」の幕が開けたとしている。

このとき日本は、2003年が「CSR元年」と呼ばれ、企業が社会的責任(Corporate Social Responsibility:CSR)として、自主的に社会に対する責任を果たす活動が活発化した。しかし、企業の本業としてESG問題に取り組むことが、事業の長期的で持続可能な発展につながるという認識はまだ広まってなかった。

後編に続く。

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