Seaspiracy の不都合な真実ファクトチェック 後編
Seaspiracy の不都合な真実ファクトチェック 後編

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混獲により、フランスでは10,000頭以上のイルカが殺されている?

Seaspiracyの00:24:05において、シーシェパードフランスの議長であるLamya Essemlali氏が、「フランスの大西洋沿岸では、毎年1万頭ものイルカが混獲によって殺されている」と述べている。

このコメントの根拠は、こちらのThe Guardianの記事をもとにしている模様だ。(SeaspiracyのWebからもリンクされている。)

この記事によると、ある環境保護活動活動家が調べたところ、2019年1月からの調査でフランスの大西洋沿岸において、1,100頭のイルカの死体が見つかったとのこと。(この記事は2019年3月31日に公開されている。)記事ではさらに、多くの死体が跡形もなく海に沈んでいるため、実際の数字は10倍以上になる可能性があるとしている。死因は定かではないが(”The cause of the deaths is not known”)スズキを捕獲するためのトロール船が原因ではないか、としている。

Seaspiracyでは、これらの推測をつなぎ合わせて、

  • フランスの大西洋沿岸における商業漁業が原因で
  • 毎年1万頭ものイルカが混獲によって殺されている

と訴えかけている。

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この訴えは推測をつなぎ合わせた誇張に過ぎないのであろうか。

2012年に発表された”Assessing the Impact of Bycatch on Dolphin Populations: The Case of the Common Dolphin in the Eastern North Atlantic(イルカの個体群に対する混獲の影響の評価:北大西洋東部のマイルカの例)”という研究結果がある。ここでは、北大西洋において少なくとも毎年1,000頭のイルカが混獲(Bycatch)されているとしている。

またこちらの論文では、トロール船によるトロール漁(底引き網漁:重いネットを海底に沈めて網の中に入ったものを全てすくう方法)1,000回あたり12.6頭のイルカを混獲するというデータを示している。

このような混獲を防ぐために、国連はじめさまざまな機関にて海洋資源の保護および、違法漁業の取り締まりのための法整備が進められている。

EUであれば、「EU規則 2019/1241」においてIUU(Illegal, Unreported and Unregulated:違法、無報告、無規制)漁業規則を定め、IUU漁業を起源とする水産物がEU域内に入域することを防止、抑止及び廃絶することを目的に、2010年1月1日から全面的に施行されている。この規則によると、日本からEU域内に輸出するすべての水産製品には、正当に漁獲されたものであることを漁船の旗国が証明する漁獲証明書の添付が義務付けられる。

ちなみに笹川平和財団のレポートによると、日本が輸入する水産物において、IUU漁業のうちの違法漁業と無報告漁業によるものは24~36%を占める模様だ。

「混獲により、フランスでは10,000頭以上のイルカが殺されている」という数字的根拠は曖昧ではある。とはいえ、イルカをはじめとした意図しない海洋生物の混獲が世界的に問題になっていることは間違いない。

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トロール漁で毎年39億エーカーの海底を破壊している?

Seaspiracyでは、混獲の主な原因の一つとされるトロール漁は、アマゾンの熱帯雨林をブルドーザーでなぎ倒す以上の環境破壊を引き起こしているとしている。

「1年間に失われる森林は約2500万エーカー。1分当たりサッカーコート27面分だ。一方トロール漁は毎年39億エーカーを破壊してると言われる。これは1分当たりサッカーコート4316面分だ。」(00:42:25)

トロール漁による環境破壊は、森林破壊の160倍というわけだ。

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この「39億エーカー」というのは、2008年に米国科学振興協会が開催した年次総会のシンポジウム「Dragnet: Bottom Trawling, the World's Most Severe and Extensive Seafloor Disturbance(底引き網、世界で最も過酷で広範囲な海底の攪乱)」における、Dr. Les Watling氏の下記の発言を根拠にしている。

”10年前、Elliott Norseと私は、世界中で毎年、トロール船が(アメリカの)48州の2倍に相当する面積を引きずっていると計算しました。(Ten years ago, Elliott Norse and I calculated that, each year, worldwide, bottom trawlers drag an area equivalent to twice the lower 48 states.)”

「39億エーカー」を導き出した計算については、SeaspiracyのFACTSページを参照いただきたいのだが、森林破壊との比較については注意が必要だ。

森林破壊はまさにブルドーザーでなぎ倒すように森林を更地にし拡大し続ける行為だが、トロール漁は同じ場所を何度もトロール網で海底をさらうものである。よって毎年”のべ”39億エーカーをトロールしているので、森林破壊の面積とは厳密には比較できない。

また、森林破壊からの復元には少なくとも40年かかるが、海底の復元は早ければ40日で復元するとされることなどからも、単純な比較は注意が必要だ。

(詳しい比較については、下記の論文のTable.4を参照。Les Watling & Elliott A. Norse (1998) ”Disturbance of the Seabed by Mobile Fishing Gear: A Comparison to Forest Clearcutting”)

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Seaspiracyではこのように恣意的に数値を採用し、センセーショナルに商用漁業の弊害を訴えている。しかしだからと言って、トロール漁の弊害を甘く見てよいということにはならない。

2014年に、『米国科学アカデミー紀要』(PNAS)において、『慢性的かつ集中的な底引き網漁による、深海の生物多様性と生態系の機能の損失 (Chronic and intensive bottom trawling impairs deep-sea biodiversity and ecosystem functioning)』という論文が発表されている。

アメリカでは、2006年にアメリカ海洋大気庁(NOAA)が西海岸沖の15万平方マイル以上の海域を「Essential Fish Habitat(必須魚生息地)」として設定・保護し、底引き網漁など、海底に長期的なダメージを与える漁法を禁止する計画を承認している。

地中海では1,000m以上の深さでのトロール漁を禁止している。深海の生態系はまだ解明されていないことが多いので、予防的に保護するための禁止措置の模様だ。また、深海性のエビが育つエリアは1000m以下にあり、このエリアをトロールから除外することは、幼いエビを保護することになり、ひいてはエビ漁業を守ることになるとしている。漁業の持続可能性を確保するために禁止しているのだ。

パラオにおいては、観光資源としての豊かな海を守るために排他的経済水域での商業的漁業を禁止しているほどだ。

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フードセーフティ認証は、持続可能な漁業を証明していない?

Seaspiracyでやり玉に挙げられるのは漁業だけではない。Dolphin Safe 認証(イルカを混獲していないことの証明)を発行しているEARTH ISLAND INSTITUTEや、海のエコラベル(持続可能な漁業の規格に合致した漁業でとられた水産物にのみ使用)を発行しているMSC(Marine Stewardship Council: 海洋管理協議会)もやり玉に挙げられている。

Seaspiracyでの反響が大きかったためか、EARTH ISLAND INSTITUTEおよびMSCはそれぞれSeaspiracyについての声明文を公開している。

・EARTH ISLAND INSTITUTE

Netflixが最近公開した映画「Seaspiracy」は、アースアイランド研究所と、その2つのプロジェクトである国際海洋哺乳類プロジェクト(IMMP)およびプラスチック汚染連合(PPC)について、数々の誤った主張をしています。 誤解を恐れずに言えば、アースアイランドがPPCやIMMP、その他のプロジェクトにプラスチック漁網の汚染を無視するよう指示し、世界の水産業界からの資金をプロジェクトに流しているというこの映画の告発は、誤りであり、無謀なものです。Seaspiracyは根拠のない陰謀論を広めています。 (Netflix’s recently released movie, Seaspiracy, makes a number of false claims about Earth Island Institute and two of its projects, the International Marine Mammal Project (IMMP) and the Plastic Pollution Coalition (PPC). To set the record straight, the film’s accusations that Earth Island is directing PPC, IMMP, or any of its projects to ignore plastic fishing net pollution and funneling money from the global fishing industry to projects are false and reckless. Seaspiracy is spreading baseless conspiracy theories.)

・MSC

Netflixで配信されている映画『Seaspiracy:偽りのサステナブル漁業』は、海に関するさまざまな問題を提起していますが、持続可能な水産物の普及活動、特にMSCの信頼性を疑問視しています。MSCは、過剰漁獲に対してより強い危機感を持つ必要があるということについては同意しますが、この映画の中の誤解を招くような主張については、事実を明確にする必要があると考えます。

Seaspiracyでは、各機関の財政面の透明性・独立性(水産業界のブルーウォッシュに利用されていないか)および、海洋資源保護プログラムの実効性について疑義を唱え、ラベルの付いた製品について消費者に誤った証明を与えていると批判している。

実際に同様の批判はSeaspiracyに限らず存在する。

グリーンピースは2009年にMSCの海洋資源保護プログラムの脆弱性について指摘するレポートを発表している。

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そのような批判やレポートはある一方で、フードセーフティ認証の取り組みは海洋資源保護に貢献していることを示すレポートも存在している。

これはWWFの2012年レポートであるが、さまざまな海洋資源保護認証プログラムについてWWFが独自に審査したもので、海洋資源の状態だけでなく、漁業による環境への影響、管理システムの有効性、認証プロセスの透明性、専門性、独立性を評価している。

WWFはこのレポートの中で、MSCについて以下のように評価している。

MSCは93%のスコアを獲得し、最も準拠していることが証明されました。 (The MSC proved to be most compliant with a score of 93 per cent)
今回の報告書では、MSCのスコアが他の認証制度を大きく上回っていることから、市場での持続可能な水産物の普及を促進し、漁業とその周辺の生態系を保護するためには、MSCがまだ改善の余地があるものの、明らかに最良の制度であることが示されています。 (This report demonstrates that MSC, while still improving, is clearly the best programme to drive uptake of sustainable seafood in the market and protect fisheries and their surrounding ecosystems, because its score greatly exceeds the other schemes.)

日本では、気仙沼を拠点にマグロ業を営む株式会社臼福本店が、MSCラベルをクロマグロ漁として世界で初めて取得したというニュースがNHKにて取り上げられた。

臼福本店が所有する漁船を見ると、遠洋マグロ延縄漁船ばかりだ。延縄漁は長い幹縄に約3,000本の釣り針が付いた枝縄を漁場に設置して、まぐろが釣り針にかかるのを待つ漁法だ。言うなれば、巨大な釣りである。この漁法であればイルカが混獲されることはないであろう。

報道によると、MSCラベルがついたクロマグロは通常より1割ほど高い価格で買い取るとのこと。持続可能なビジネスは、社会価値を高めるだけでなく経済価値にも好影響を及ぼすことを示している。

MSCはじめ、さまざまなフードセーフティ認証はまだまだ改善の余地があるだろう。しかしながら、完全でないことを理由にすべてを否定することも誤った行為ではないだろうか。消費者として水産加工品を購入する際にこのようなラベルを意識することで、水産資源保護に少しでも近づくと考える。

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誰一人すべては変えられないけど、誰でも必ず何かはできるのか?

Seaspiracyは最後、「誰一人すべては変えられないけど、誰でも必ず何かはできる」という言葉で締めくくられる。これは正しい。

Seaspiracyは、前編で述べたように人類のヴィーガン化を促進するためのプロパガンダムービーであり、そのためにかなりのバイアスをもとに恣意的に情報をコントロールし商業漁業を批判している。

しかし、すべての人間がヴィーガンになることは非現実的だろう。世界の漁業・養殖業の従事者は約6千万人(国際連合食糧農業機関(FAO)2016年)だ。これだけの規模の産業をひとりの人間では変えられないのも確かだ。

海洋に囲まれた日本で新鮮な海の幸を楽しめるのは至福の一つである。Seaspiracyをきっかけに海洋資源の実態やその保護の取り組みについて興味を持ち、知識をアップデートし消費者としての行動を見直すことは、私たちができる最初の一歩ではないだろうか。

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参考

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