『ESG思考』から学ぶ、世界に押し寄せるESG潮流(後編)
『ESG思考』から学ぶ、世界に押し寄せるESG潮流(後編)

『ESG思考』から学ぶ、世界に押し寄せるESG潮流(後編)

前編はこちら。後編の最後に、ESG潮流年表が付いてます。

企業の動きに触発されて採択されたSDGs

企業の持続可能な発展、サステナビリティ経営へ向かう大きな契機になったのは、2008年のリーマンショックだ。リーマンショックにより、短期的利益を追求する過度な資本主義への懐疑性が高まり、またステークホルダーの価値観が変わったことで、社会課題の解決や長期的な視点が競争戦略上も重要な要素になった。

(ちなみに日本の企業においては少々事情が異なるようだ。ぜひ『ESG思考』をお読みいただきたい。)

2011年には、世界経済フォーラム「ダボス会議」で発表されたグローバルリスク報告書で、発生確率が高く、インパクトが大きいとされたリスクのひとつに「気候変動」が挙げられた。

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出所:世界経済フォーラム (2011) 『第6回 グローバルリスク報告書 2011年度版

同じ年に、シンガポール証券取引所がESG情報開示ガイドラインを発表し、上場企業に対して開示を推奨する。

また、ウォルマートとパタゴニアのリーダーシップの下、サステナブル・アパレル連合(SAC)が設立される。この団体は、環境に対する影響および社会正義について、測定するためのスタンダードなツールの開発を目的とした。

2012年に、環境NGOのグリーンピースがGAFAなどのIT企業を対象に電力の環境配慮を独自評価した格付けを実施し、評価が低かったアップル、アマゾン、マイクロソフトに対し、グリーンピースはネガティブキャンペーンを世界的に展開していく。これをきっかけに、Apple、Google、Amazon、Microsoft などは再生可能エネルギーへの切り替えを進めていく。

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グリーンピースが独自に算出した各クラウド事業者のクリーンエネルギー比率。 出所:Greenpeace International (2012) 『How Clean is Your Cloud?

以上のように、ESG投資の土壌ができ、気候変動対策待ったなしの状況で、GAFAをはじめとした企業が、気候変動などの環境問題、社会課題の解決のためのサステナビリティ経営を目指す中、2015年、国連が持続可能な開発目標(SDGs)を採択する。

『ESG思考』の「第6章 ニュー資本主義が産み出したパリ協定・SDGs」では、SDGsについてはこのように述べている。

国連の呼びかけで企業が動くようになったのではなく、国連が企業の動きに触発されて採択したものだ。ここでも「民間が先、政府が後」という状況が生まれていた。

SDGsにおいては、”地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」”という誓いがなされている。これは、企業の努力だけでは解決できないESG問題を、国連がカバーすることを誓ったことを意味するのではないだろうか。

同じく2015年にはCOP21パリ会議にて「パリ協定」が採択され、2016年に発効される。パリ協定は、気候変動枠組条約に加盟する全196カ国全てが参加する枠組みであり、各国は削減目標を作成・提出・維持する義務と、削減目標の目的を達成するための国内対策をとる義務を負う。

ESG潮流からは誰も逃れられない

このようにして、あらゆる政府、あらゆる企業がESG問題に取り組まねばならない状況に至った。

事実、2017年には気候変動分野の機関投資家イニシアチブ「Climate Action 100+」が発足し、CO2排出量の多い100社に対して気候変動対策を迫る活動を開始し、企業の資金調達に大きな影響を及ぼし始めている。

このイニシアチブには2021年6月3日時点で機関投資家575機関が参加し、運用資産総額は54兆米ドル(約6,000兆円)に上る。その中には、178兆円の運用資産を持ち、世界最大の年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も含まれる。

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Climate Action 100+の投資状況 (2021.6.3時点) 出所:https://www.climateaction100.org/

企業にとっては、ESG問題に取り組み、持続可能な発展を示せなければ投資を受けられない環境になっているのだ。

企業だけでなく国家においても持続可能な開発は、避けては通れない。

EUでは、2019年にEUの執行機関・欧州委員会は気候変動対策「欧州グリーンディール」を発表した。

欧州グリーンディールによりEUは、経済成長と資源利用を切り離し(デカップリング)、2050年にはCO2の正味の排出量をゼロ(ネットゼロ)とするような持続可能で競争力のある経済と、人々の幸福と健康を向上させる社会への転換を目指す。

【水口教授のESG通信】欧州グリーンディールの本気度 - EUタクソノミーの背景

今、欧州委員会の動きが急だ。2020年3月に欧州気候法を提案したかと思うと、立て続けにサーキュラーエコノミーアクションプランや 生物多様性戦略を公表し、7月には水素戦略が出た。いずれも「 欧州グリーンディール 」を具体化する動きである。以前このコラムでEUタクソノミーの動向を取り上げた際、その背景にあるサステナブル金融の制度化の動きに注目したが、サステナブル金融自体もより大きなビジョンの一部と言えるのではないか。きっとそのような全体の枠組みがあってはじめてタクソノミーも機能するのだろう。タクソノミーだけに注目していたのでは見えてこないEUのビジョンの全体像に目を向けてみよう。  「木を見て森を見ず」は細部にとらわれて全体像が見えないことのたとえだが、欧州に関わる企業なら、当然、自社に直接関わる政策を詳しくフォローすることだろう。つまりまず「木」を見る。ここでは、それら1本1本の木を順に見ていくことで、全体としての「森」の姿をイメージすることを試みたい。  まず欧州グリーンディールの起点となったのが、2019年12月1日、ウルズラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)氏の欧州委員会委員長への就任である。初の女性の委員長として、2024年までの5年間、欧州委員会を率いることになる。同氏は就任に先立って『より多くの人のための連合:欧州のためのアジェンダ(A Union that strives for more: My agenda for Europe)』と題した公約を公表し、その中で政策ガイドライン(Political Guidelines)として以下の6つを掲げた。これが現在の欧州委員会の優先課題となっている。欧州グリーンディールはその筆頭である。 ü 欧州グリーンディール(A European Green Deal) ü 人々のための経済(An economy that works for people) ü デジタル時代にふさわしい欧州(A Europe fit for the digital age) ü 欧州的生き方を推進する(Protecting our European way of life) ü 国際社会でより強い欧州となる(A stronger Europe in the world) ü 欧州の民主主義をさらに推進する(A new push for European democracy) 出所: 欧州委員会ウェブサイトより抜粋。なお日本語訳は駐日欧州連合代表部公式ウェブマガジン「 EU MAG 」に掲載されたものを用いた。  これを受けて、直後の2019年12月11日には欧州委員会が「 欧州グリーンディール 」と題した政策文書を公表した。その冒頭、欧州グリーンディールとは、気候と環境の課題に取り組む欧州委員会のコミットメントの再設定であり、新たな成長戦略だと述べている。その目的は、経済成長と資源利用が切り離され、2050年には温室効果ガスの排出をネットゼロとするような資源効率的で競争力のある経済と、公正で繁栄した社会へとEUを転換することだという。その後の本文で、目的を実現するための具体的な施策のロードマップが示されており、それに沿って、その後、実際に次々と戦略やアクションプランを打ち出し始めたのである。  その第一弾は、2020年1月14日の「 欧州グリーンディール投資計画(The European Green Deal Investment Plan) 」の公表であった。欧州グリーンディールの目標実現のために、EUの予算に加え、欧州投資銀行(EIB)からの投資等も加えて、今後10年間で少なくとも1兆ユーロ(約130兆円、1ユーロ130円で換算。以下同じ)の資金を動員するという計画である。同時に、その一環として「公正な移行メカニズム(Just Transition Mechanism)」も示された。「誰一人取り残さない(no one left behind)」という理念の下、移行によって最も影響を受ける地域に的を絞って、2021年から2027年の間に少なくとも1000億ユーロ(約13兆円)の支援をする計画である。炭素集約度が高く化石燃料に深く依存する産業や地域の人々に新たな産業セクターでの雇用やスキル教育を提供するとしている。  その後、3月4日には、欧州議会と欧州連合理事会に対して「 欧州気候法(European Climate Law) ...

【水口教授のESG通信】欧州グリーンディールの本気度 - EUタクソノミーの背景

2020年の国連総会の一般討論にて、中国の習近平国家主席が2060年にはCO2排出量のネットゼロの実現に向け動きだすことを表明した。

2021年には菅首相が、2030年までのCO2排出量削減目標を2013年度比46%減とする目標を発表したのは記憶に新しいのではないだろうか。

各国のSDGs、ESGの関心度合い

最後に、Google Trendをもとに日本における「SDGs」「ESG」に対しての関心度合いを比較してみた。日本において「SDGs」は、ビットコインやイーサリアムに代表される「仮想通貨」と同程度の関心度合いと考えられる。企業活動における持続可能性に関わるキーワード「ESG」については、SDGsと比べて1/5程度ということが読み取れる。

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かたや、世界全体を見た場合、「SDGs」と同等もしくはそれ以上に「ESG」というキーワードが検索されることが見て取れる。

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なかでも、アメリカ合衆国、英国、ドイツ、台湾を見ると、「SDGs」よりも「ESG」のほうが圧倒的に検索ボリュームが大きいことが見て取れる。

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この結果を見ると、日本では「ESG」というものの認知・理解が世界に比べて遅れていると言えるのではないだろうか。ESG問題に取り組むということは、気候変動をはじめとした地球環境や生態系の維持、人間社会の持続可能性を高めるのはもちろんのこと、企業それぞれの持続可能な発展に直接つながることである。裏を返せば、ESG問題に取り組まないと企業の持続可能な発展はあり得ない、というとを忘れてはならない。

最後に、世界及び日本のESG潮流を把握しやすいように、ESGに関する年表を作成した。ESG潮流を理解するために、ぜひご活用いただきたい。

ESG潮流年表 (2020.6.1版).png1197.4KB
ESG潮流年表 (2020.6.1版)出典情報付.xlsx51.2KB
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これらの資料はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

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謝辞

ESGの理解を深めるきっかけ、そしてこの記事を書くきっかけとなった書籍『ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった 』(講談社+α新書) および、その著者の夫馬 賢治氏に感謝いたします。

これまで継ぎはぎだったESGやSDGsに関する私の知識を補い、理解の軸が形成されました。

ここまで読んでくださった読者の皆様、お読みくださりありがとございました。

夫馬 賢治氏の著書には『ESG思考』のほかに、『超入門カーボンニュートラル』『データでわかる 2030年 地球のすがた』などがあります。どれも読みやすいながらも本質を理解できますので、大変おススメです。ぜひお手に取りください。

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