Seaspiracy の不都合な真実ファクトチェック 前編
Seaspiracy の不都合な真実ファクトチェック 前編

Seaspiracy の不都合な真実ファクトチェック 前編

Netflixオリジナルの海洋資源問題を取り扱った話題のドキュメンタリー『Seaspiracy』。

この番組では、商業漁業についての知られざる真実が描かれており日本を含む世界中で話題となっている。私も実際にこのドキュメンタリーを見たときは、あまりの衝撃で魚介類を食べることを躊躇するようになった。

しかしこの番組の内容を鵜呑みにすることは、これまで無知なまま魚介類を食べていたことと何ら変わりはないと思われる。よって、『Seaspiracy』にて描かれる不都合な真実たちのファクトチェック・事実確認をしていきたい。

『Seaspiracy』 の本当の目的はなにか?

『Seaspiracy』は22歳のAri Tabriziという若者が制作指揮・監督したNetflixオリジナル番組である。”spiracy”は陰謀という意味。

このドキュメンタリー番組は、Netflixおいて話題沸騰中の人気番組であり、Netflix全世界における4月のTop 10 ムービーでSeaspiracyは6位にランクインしている。

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FlixPatrolによると、2021/4/15時点のNetflixの全世界における4月のTop movieで、Seaspiracyは6位である。 引用元: FlixPatrol

Twitterを見ると、このドキュメンタリーに衝撃を受け「とても考えさせられた」「魚介類は食べない」「シーフードの美味しさの裏側を認識しなければならない」「VEGANが間違いないということも確信させてくれる」といったツイートがあるとともに、「サステナブル漁業認証は全く機能しないと結論づけるのではなく、精度向上を求めることが必要。」という意見もあり、賛否両論を呼んでいる。

実は、このドキュメンタリーはNetflixが企画から制作した番組ではない。エグゼクティブ・プロデューサーとして名を連ねているDan Vinceが出資し、Ari Tabriziが制作したものをNetflixが2020年に買い取ったとREPUBLICWORLD.COMは伝えている。Dan Vinceは、英国のグリーンエネルギー会社”Ecotricity”の創設者で、彼にドキュメンタリー制作の出資を持ちかけたのはKip Andersenだ。Kip Andersenは畜産業界の問題に切り込んだドキュメンタリー『Cowspiracy』の監督であり、Seaspiracyのプロデューサーでもある。

Seaspiracyの公式サイトでは、ヴィーガンフードのレシピサービス「PLANeT BASED MEALS」がリンクされている。このサービスを提供するA.U.M. Film and Mediaは、Kip Andersenが立ち上げた制作会社だ。

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Kip Andersenは、A.U.M. Film and Mediaの創設者だ。 引用元: Climate one

また、監督のAri Tabriziは『Vegan 2018』という映画の出演者に名を連ねており、ヴィーガン推進の活動家である。

これらの事実を踏まえると、水産業界を批判する『Seaspiracy』は、畜産業界を批判する『Cowspiracy』と対になるものであり、動物性たんぱく質の摂取を否定し、人類のヴィーガン化を促進するためのプロパガンダムービーと捉えてよいのではないだろうか。

そのような背景を持つSeaspiracyにおいて、大きな論点となるポイントのファクトチェックをしていこう。

海洋プラスチックごみの5割は漁網によるもの?

海洋プラスチックごみは海流により、大きく5つのゴミ溜りGPGP(The Great Pacific Garbage Patch)に蓄積されている。5mm以下のマイクロプラスチックから巨大な漁網までごみの種類は様々である。

NatureのScientific Reportによると、GPGPの質量の3/4以上は5cm以上の大きさのゴミであり、その質量の少なくとも46%は漁網であるとされている。

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世界のGreat Pacific Garbage Patchの状況 引用元: THE OCEAN CLEANUP

しかし、このレポートの共著者であるBoyan Slat氏はTwitterで「海に捨てられるプラスチックの46%が、漁業関係であることを示しているわけではない」と、Seaspiracyの公開に反応して述べている。

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Boyan Slat氏のTwitter @BoyanSlat より。 https://twitter.com/BoyanSlat/status/1376604979360890882

漁網やブイなどは、海洋の厳しい環境にも耐えるよう頑丈なプラスチックでできている。かたや、ほとんどのビニル袋やプラスチックの包装は薄い。それらは脆いためマイクロプラスチック化するか、浮力を失って海底に沈殿する。それらは川から海に流れ込むことが多く、ほとんどは海岸に打ち上げられる。海岸から離れ、GPGPに混ざるのは”かなり幸運だ”と述べている。

このようにGPGPには選択的に漁網などが集まりやすいという性質を持っている。

以上のことよりSeaspiracyは、海洋プラスチックごみにおける漁網の割合が大きく見えるよう、恣意的に数字を選んでいる。

海洋プラスチックごみのうち、ストローはたったの0.03%?

Seaspiracyでは、世間で話題になっているプラスチックストローが実は海洋プラスチックごみのうちの0.03%であり、「アマゾンの熱帯雨林を守るために爪楊枝を規制する」ようだと述べている。そして「焼け石に水」なアンチストロー活動ばかり注目を集めることで「プラスチックごみの大半が漁網である」という不都合な真実を隠している、としている。

この”0.03%”は2018年のBloomberg Opinionから引用されたと考えられる。

まず、オーストラリアの2人の科学者(Denise Hardesty and Chris Wilcox)が見積もった、海に捨てられたプラスチックストローの量が基準となる。彼らは5年間かけて調査した結果、アメリカの海岸線に捨てられているプラスチックのストローが750万本に上ると見積もった。さらにその見積もりをもとにし、世界の海岸線には83億本のプラスチックストローが散乱していると見積もった

このBloombergの記事ではその推測をもとに、もしそれらが突然すべて海に流されたとしても、1年間に海に流入すると推定される800万トンのプラスチックのうちの約0.03%に過ぎない、と述べている。以上のように、0.03%というのはあくまでかなりの推測と仮定に基づいた数字だ。

ちなみにこのBloombergの記事のタイトルが『Plastic Straws Aren’t the Problem』とあるように、プラスチックストローはさほど問題ではない、と言いたいがための記事だ。

以上のことから「海洋プラスチックごみの5割は漁網」と同じように、Seaspiracyは漁網に焦点を当てるために、0.03%という値を採用している。

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しかしながら、ゴミとなった漁網が海洋生物にとって脅威であることはSeaspiracyの通りである。事実、WWFは「放置された漁具は”不滅の脅威”であり、プラスチック汚染対策の中心とならなければならない」というレポートを出している。

2048年までに魚がいなくなって、海は空っぽになる?

”もしこのペースで漁業を続けると2048年までに海は空っぽになる”とSeaspiracyは警告する。

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Seaspiracy Netflix より

この2048年問題は、Dalhousie Universityの海洋環境学者 Boris Wormらが2006年にScienceで発表したレポートがもとになっている。このレポートでは、乱獲により現在漁獲されているすべての魚種が2048年に世界的に崩壊すると予測した。

実はこの2048年問題は、このドキュメンタリーのなかで最も物議をかもしているポイントのひとつである。実際、Seaspiracyの公式サイトのファクトページでもっとも大きく紙面を割いて解説している。

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2006年に2048年問題を提起したBoris Wormは、同じScienceにて2009年に『Rebuilding Global Fisheries』という研究成果を発表している。

この発表では、海洋生態系の回復と漁業の見直しに向けた取り組みが活発化し、詳細な調査が行われた10の地域のうち、5つの地域にて平均漁獲率が下がっていることを示した (漁獲率が低いほど漁業資源の”搾取”が少ないと言える)。また、漁獲制限、漁具の変更、禁漁区など、地域の状況に応じた多様な管理方法を組み合わせることで持続可能な漁業を実現する期待が持てることを示した。

Seaspiracyでは2006年の研究結果を引用し2048年問題をセンセーショナルに伝えた。しかし、海洋生態系の回復と漁業の見直しに向けた取り組みによる持続化に向けた兆しについての、2009年の研究成果は伝えていない。

Seaspiracyはそのように恣意的に情報を取り扱っているが、漁業資源が危うい状況はその通りである。前述のBoris Wormが2016年に発表したレポートでは、現状のまま進むと2050年には88%の漁業資源が過剰に搾取され、目標バイオマスを大幅に下回ると計算している。

SDGsの14番目に「海の豊かさを守ろう」という目標が掲げられている通り、漁業資源の回復への取り組みは待ったなしなのである。

後編に続く。

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